企業の解散と清算に係るリスクと防止

景気が悪くなると、解散や清算を決定し、「事業」を終結させる企業もある。但し、企業の清算は終わらせればよいというものではない。適切に処理しなければ、その後の様々な法的リスクを引き起こす恐れがある。2023年に改正された『会社法』(以下『新会社法』という)では、企業の清算について多くの規定が織り込まれており、注目に値する。

以下は有限責任会社清算時における責任主体に焦点をあて関連リスクを整理する。

  1. 清算義務者に係る法的リスク

『旧会社法』では清算義務者についての規定はなく、清算組(注:日本で清算人会という。清算会社の資産、債務等の調査を行い、清算案を作成する組織。)が株主によって構成されることだけが規定されていた。『新会社法』第232条には、「取締役は清算義務者であり、解散事由が発生した日から15日以内に清算組を設立して清算しなければならない。」と規定している。そのため、清算義務者が適時に清算義務を履行せずに会社や債権者に損失を与えた場合、以前は株主が責任を負っていたが、現在は取締役が責任を負うことになった。

『旧会社法』に付随する『会社法司法解釈(二)』第18条第1項の規定によると、債権者に損失をもたらす事由には、「法定期限内に清算組を設立せず、清算を開始せず、会社の財産の切り下げ、流失、毀損または滅失を招き、これによって債権者に損失をもたらした場合」が含まれる。『会社法司法解釈(二)』第18条第2項には、「株主が義務の履行を怠ったため、会社の主要財産、帳簿、重要な書類などが滅失し、清算ができなくなった場合、債権者は株主に会社の債務について連帯責任を負うよう請求することができる。」と規定している。『新会社法』の施行に伴い、取締役は清算義務者となるため、今後は、取締役が連帯して弁済責任を負う。

注意すべきことは、『新会社法』第232条には、「清算組は取締役によって構成される。但し、会社定款に別途規定がある場合、または株主総会の決議により他者を選任する場合を除く。」と規定している。そのため、本条を如何に適切に利用するかが非常に重要となる。

  1. 清算組のメンバーに係る法的リスク

『新会社法』では、列挙+「その他」の方式で、清算組が行う会社財産の整理、債権者への通知・公告、未完了業務の処理、税金納付、債権債務の整理、残余財産の分配、会社を代表して民事訴訟に参加する職責及び相応の要件のほか、債権者への通知・公告の期限などが定められた。清算組は清算期間中に法定職権を行使し、相応の責任を負うため、清算組のメンバーは法に基づく忠実義務と注意義務も負う。清算組は清算職責の履行を怠り、会社に損失を与えた場合、損失を賠償しなければならない。また故意または重大な過失によって債権者に損失を与えた場合、損失を賠償しなければならない。清算組のメンバーが会社の財産を隠匿・移転し、登記抹消のため虚偽の清算報告書を作成するなどの違法行為をした場合、関係者は民事責任及び刑事責任を負う可能性がある。詳細については、旧『会社法司法解釈(二)』第19条の規定及び『刑法』第162条の清算妨害罪の項を参照のこと。

  1. 株主、実際の支配者に係る法律リスク

『会社法司法解釈(二)』第18条と第19条によると、株主、実際の支配者が清算組の設立を怠り、清算義務の履行を怠り、意図的に会社の財産を処分し、法により清算を行わないか又は虚偽の清算報告書で登記抹消を不正に取得した場合、会社の債務について、債権者は当該株主、実際の支配者に対し相応の賠償責任を負わせることができる。実務において、会社は登記抹消を行う際に、通常、株主が発行する会社の債務に対して責任を負う旨の承諾書を提出しなければならない。この承諾書の法的効力を確保するために、『会社法司法解釈(二)』第20条では、債権者はこの承諾書に基づき、会社の債務について、株主に相応の民事責任を請求することができると定めている。また、出資が全額払い込まれていない場合、株主は未払込の出資範囲内で会社の債務に対して連帯して返済責任を負わなければならない。

  1. 第三者に係る法的リスク

会社は登記抹消を行う際、通常、株主が発行する会社の債務に対して責任を負う旨の承諾書を提出しなければならない。但し、実務において第三者が発行するケースもある。この場合、第三者が債権者に対して株主が負う上述の民事責任と類似の責任を負う。

以上のことから、企業が清算事項を処理する際に特に注意すべきポイントは下記の通りだ。

第一に、遅滞なく清算組を設立して清算を開始すること。取締役が外国人で言葉の壁があるなど他者を別途選任する必要がある場合は、定款に関連規定があるか否か、または株主総会の決議手続がコンプライアンスに合致するか否かについて注意する。

第二に、清算職責を確実かつ慎重に履行し、手続と期限の要件に注意を払い、債権者に通知するEMSのシッピングマークなど職責履行に関する証拠を保留するよう清算組のメンバーに促すこと。例えば、(2024)滬0115民初34867号事件では、清算組のメンバーは清算事項を原告に電話で通知したが、証拠を提出できなかった。裁判所は、「清算組のメンバーは原告に対する通知義務を直接履行しなかったため、原告は債権申告を適時行うことができなかった。」と判断し、最終的に「清算組のメンバーが賠償責任を負う」と判決を下した。

第三に、企業は日常業務において財産、帳簿など重要な書類をしっかり保存し、紛失しないように注意する。また、財務、税関、税収などに係る特殊的な法令に注目し、関連要求をしっかり把握するよう努めなければならない。