紛争の管轄が正しく約定されているか?

自らの訴訟活動を円滑に進めるため、多くの当事者は契約において「原告所在地の裁判所が管轄する」、「契約締結地の裁判所が管轄する」など具体的な管轄裁判所を約定する。しかし、司法実務において、このような約定があっても、約定が無効となる、または管轄権を有する裁判所に移送されるケースが多い。これはなぜだろうか?

『民事訴訟法』第35条には、「契約またはその他の財産権益紛争の当事者は書面による合意において、被告住所地、契約履行地、契約締結地、原告住所地、目的物所在地など、紛争と実際に関係する場所を管轄する人民法院を選択することができる。但し、本法における級別管轄と専属管轄に関する規定に違反してはならない。」と規定している。つまり、合意管轄は2つの条件を満たさなければならない。1、合意管轄の裁判所が紛争と実際に関係する場所にある。2、合意管轄は級別管轄と専属管轄の規定に違反してはならない。級別管轄と専属管轄に関する規定は明確であるため、以下では「紛争と実際に関係する場所」について如何に理解し、具体的に設定するのかについて重点的に検討する。

「紛争と実際に関係する場所」の判断については、『民事訴訟法』第35条で5種類の場所が定められている。この5種類の場所のいずれにも該当せず、かつ紛争と実際に関係する場所を証明できない場合、約定は無効と認定される。例えば(2019)最高法民轄76号事件では、最高裁判所は「『公演サービス契約』では、紛争が起こった場合、北京市朝陽区人民法院に提訴できることを約定しているが、北京市朝陽区は本件紛争と事実上無関係のため、合意管轄条項は無効である。本件は法定管轄に従い管轄裁判所を確定すべきだ」と判断した。

5種類の場所については、下記のポイントに特に注意を払うべきである。

第一に、被告住所地と原告住所地について。実務においては2つの特殊な状況がある。1、契約に記載されている当事者の住所地が登記登録地と異なる。2、提訴時に登記登録住所が変更されている。

上述の1番目の状況について、『〈中華人民共和国民事訴訟法〉の適用に関する最高人民法院の解釈』の第3条には、「……法人又はその他の組織の住所地とは、法人又はその他の組織の主な事務所の所在地を指す。法人又はその他の組織の主な事務所の所在地が特定できない場合は、法人又はその他の組織の登録地又は登記地を住所地とする。」と規定している。従って、司法実務において、当事者の主な事務所が契約に記載されている住所にあれば、紛争は発生しない。当事者の主な事務所が契約に記載されている住所にあるという証拠がなければ、契約の約定だけで管轄を確定することはほぼない。例えば、(2023)最高法民轄46号事件では、最高裁判所は、「契約では被告の住所は杭州市濱江区であると明記されているが、提訴と受理の段階で、当該住所に被告の主な事務所がある証拠がないため、本件は被告の登録住所である上海市閔行区人民法院が管轄すべきである」と判断した。しかし、その後に裁決を下した(2023)京03民轄終375号事件では、北京市第三中級人民法院は「双方が契約に記載された被告の住所に異議はなく、当該住所に被告の主な事務所があると推定されるため、契約に記載された住所の所在地の人民法院が管轄すべきである」と判断した。要するに、この問題に関して、裁判所によって見解が異なる。どうしても当事者所在地の人民法院による管轄を約定したい場合は、「提訴時に当事者の営業許可証に記載されている登記登録住所の所在地の人民法院が管轄する」ことを明記しておいたほうがよい。また、契約時に登記登録住所以外の住所がある場合は、できるだけ「通信住所」または「連絡先」などと記載しておくべきである。

2番目の状況について、実務上、議論はない。『〈中華人民共和国民事訴訟法〉の適用に関する最高人民法院の解釈』第32条において、「管轄協議書では一方当事者の住所地の人民法院による管轄を約定し、協議書締結後に当事者の住所地が変更された場合は、管轄協議書締結時の住所地の人民法院が管轄する。当事者間に別途約定がある場合は除外する」と規定しているからである。

第二、契約締結地について。『民法典』第493条の規定によると、当事者は契約締結地を約定することができる。契約締結地の裁判所による管轄を約定していたが、約定した契約締結地が紛争と実際に無関係である場合、合意管轄は有効であるか?これについても、裁判所によって見解が異なる。例えば(2023)最高法民轄70号事件では、最高裁判所は合意管轄を有効と認定し、「通常、当事者が書面で契約を締結し、契約に約定された締結地が実際の署名場所または捺印場所と一致しない場合、人民法院は約定された締結地を契約締結地と認定すべきである。本件の合意管轄の約定が具体的かつ明確であり、当事者が契約に約定された締結地の真実性に異議を申し立てなかったことからも、上海市虹口区人民法院が「虹口区は本件の原告、被告及び第三者のいずれか一方の所在地でなく、本件契約といかなる関連性もない」として、案件を重慶市巴南区人民法院に移送して処理させることは、不適切な法律適用である。当院はそれを是正する」と指摘した。但し、(2023)最高法民轄36号事件では、最高裁判所は、「実際の関連性があることを証明する証拠がない場合に約定された締結地の裁判所による管轄を確定すれば、「必ず多くの「他省・他市の」事件が合意管轄により、約定された裁判所に持ち込まれ、正常な民事訴訟管轄の公法秩序の破壊を及ぼすため、本件の合意管轄条項は無効である」と判断した。裁決結論の不確実性に鑑み、契約締結地を約定する際は契約の履行と関連性がある場所を選択したほうがよい。

第三、契約履行地について。『〈中華人民共和国民事訴訟法〉の適用に関する最高人民法院の解釈』第18条、第20条では、異なる契約関係に対して契約履行地を如何に確定するかについて定めているが、司法実務には異なる見解が多いので、ここでは省略する。ただ契約履行地の裁判所による管轄を約定するだけでなく、できるだけなぜそれを契約履行地とするかの理由についても契約に記載したほうがよい。