分公司が閉鎖された場合、従業員はどうなるのか?

会社登記の抹消の場合は、法に基づき労働契約は終了し、会社が経済補償金を支払うことに疑いの余地はない。一方、分公司登記の抹消の場合は、『会社法』上、分公司は独立した法人格を持たないため、本社が民事責任は負うことになる。そのため、実務において、分公司登記抹消の場合、会社登記抹消と同様に、労働契約は終了し、補償金が支払われるかについて意見のばらつきが見られる。

その根本的な原因は『労働契約法』第44条第(5)号の規定に対する解釈の違いだ。

『労働契約法実施条例』第4条によると、法により営業許可証又は登記証明書を取得した分枝機構は、使用者として労働者と労働契約を締結することができる。従って、分公司は間違いなく使用者に該当する。『労働契約法』第44条第(5)号では、使用者が営業許可証を取り上げられた場合、閉鎖もしくは取消を命じられた場合、または使用者が早期解散を決定した場合は、労働契約が終了するものと規定しているが、分公司の登記抹消が「使用者の取消、又は使用者が早期解散を決定した場合」に該当するのかについて見解が異なる。

司法実務においては、分公司の登記抹消は『労働契約法』第44条第(5)号に規定される事由に該当するというのが一般的な見解である。その主な理由は、労働関係の主体からみて、使用者が本社ではなく分公司である以上、分公司が登記抹消により存在しなくなった場合、当然『労働契約法』第44条第(5)号に規定された「使用者が主観的または客観的な原因により存続しなくなる」という状況に該当するからだ。例えば、(2021)京03民終13848号事件において、裁判所は「三期(妊娠期、出産期、授乳期)の女性従業員と労働関係を構築した対象は本社ではなく分公司であり、分公司の登記抹消は労働関係終了の法定事由に該当する」と明確に指摘した。実は、この見解の背後には別の現実的な考えがある。つまり、分公司と本社は同じ場所にないケースが多いため、本社が、分公司の使用者としての義務を引き継ぎ、かつ分公司の従業員との労働契約を継続することが可能か、従業員の仕事をいかに手配するか、従業員が転勤に同意するかなど現実的な障害が存在する。この点は『労働契約法』第40条の「客観的状況に大きな変化が生じた」という状況に類似する。

しかし、個別の判決においては、分公司の登記抹消による労働契約の解除は違法解除にあたるとする反対の見解を示すものもある。例えば、(2020)川15民終1841号事件では、裁判所は、「三期の女性従業員は『女性従業員労働保護特別規定』に基づき特別な保護を受けるべきである」として、「本社が分公司の使用者としての義務を引き継ぎ、労働契約を履行し続けるべきだ」と指摘した。使用者応訴の立場からは、上述の本社が労働契約の履行を継続することが従業員にとって現実的な障害となること及び『労働契約法』第40条との類比により、裁判官が合理的な判断を下せるよう導くことが推奨される。

また、労働契約終了の具体的な時点をどのように確定するかという問題についても考えなければならない。

この点については明確な法律規定がない。司法実務においては個別事件によって判決が異なる。〔2016〕年最高法民申800号事件において、最高院は「『中華人民共和国労働契約法』では、使用者が早期解散を決定した場合の労働契約終了の具体的な時点を明確にしていないため、労働関係終了時点の確定については、使用者が解散を決定した際に、清算の実務を踏まえて、使用者と労働者が労働契約終了手続きを行った日を終了時点とするのが適切である。」と指摘した。「〔2011〕閩01民終9317号事件においては、裁判所は「分公司は従業員に労働契約の終了通知書を出してから7カ月後に登記抹消を行ったので、労働契約の終了ではなく、違法解除に該当する」と指摘した。又、ごく一部であるが、本社が分公司廃止決定を下した日を労働契約終了日とすることが認められた案件もある。

以上を踏まえ、使用者の立場から考えると、以下の2つの側面からリスクを防止することできる。(1)分公司は廃止の少なくとも1か月前には従業員に通知し、かつ従業員に配布する労働契約終了通知書において「分公司が廃止される」という事由を明記すること。(2)個別の案件において、時間がかかり過ぎたことを理由に、労働契約終了と分公司の登記抹消との因果関係が疑われた。又、『市場主体登記管理条例実施細則』第44条によると、決定を下した日から30日以内に登記抹消を申請しなければならない。以上のことから、分公司の登記抹消は極力短期間で完了させなければならない。