『インターネット上の不正競争防止に関する暫定規定』が2024年9月1日より施行

中国の現行の『不正競争防止法』第12条では、3つの「インターネット上の不正競争行為」、即ち「トラフィックのハイジャック、悪意のある妨害、悪意のある非互換性などの行為」について定め、「その他」の条項も設けている。『<中華人民共和国不正競争防止法>の適用における若干問題に関する最高人民法院の解釈』では第21条、22条において、「トラフィックのハイジャック」及び「悪意のある妨害」の認定について詳述している。しかし、オンラインビジネスが発展・変化していく中で、上述の規定が、次々と現れる新しい問題をカバーすることは難しい。

このような背景下で、市場監督管理総局は2024年5月11日に『インターネット上の不正競争防止に関する暫定規定』(以下『規定』という)を公布し、2024年9月1日より施行される。『規定』は計5章43条で構成され、総則、インターネット上の不正競争行為、監督検査、法的責任、附則に分かれている。

企業においては、『規定』におけるインターネット上の不正競争行為及びその認定基準が注目に値するポイントだろう。

1、『規定』では、インターネットにおける従来の不正競争行為の新形態を規制している。

種類 規定

混同行為

『規定』第7条

• 以下の表示を保護対象範囲とし、近似表示の使用を禁止する。

①一定の影響力を有するドメイン名の主体部分、ウェブサイト名称、ウェブページ等。

②一定の影響力を有するアプリケーションソフト、オンラインショップ、クライアント、アプレット、公式アカウント、ゲームインターフェースなどのページデザイン、名称、アイコン、形状等。

③一定の影響力を有するインターネット別名、インターネット記号、インターネット略語等。

• 下記の混同行為の新規追加:

①他人の商品であるか又は他人と特定のつながりがあるという誤認させることが十分可能な商品を生産販売する行為。

②他人の一定の影響力を有する商業表示を検索キーワードとして無断で設定し、他人の商品である又は他人と特定のつながりがあると誤認させることが十分可能な行為。

• 協力混同行為の新規追加即ち、インターネット上の事業所などの便宜を通じて、他の事業者と共同で混同行為を実施する行為。

虚偽宣伝

『規定』第8、9条

 

• マーケティングに関するインターネット上の虚偽宣伝行為。主要な方法:

①ウェブサイト、クライアント、アプレット及び公式アカウントなどを通じて展示、実演、説明、解説、宣伝又はテキスト表示を行う。

②ライブ放送、プラットフォームによる推奨、インターネット上のコピーライティングなどにより商業マーケティング活動を実施する。

③人気検索ワード、ホットコメント、人気投稿のシェア、ランキングリストなどにより商業マーケティング活動を実施する。

• データ偽造に関するインターネット上の虚偽宣伝行為:

①虚偽の取引又は虚偽のランキング。

②取引額、成約量、予約量など経営に関するデータ情報の捏造。

③架空在庫、架空の予約、虚偽の買い占めなどを使ったマーケティング。

④ユーザーの評価を捏造したり、誤解を招くような展示などで低評価を隠したり、良い評価を前面に出して低評価を後方に配置したり、異なる商品の評価を明確に区別しない行為。

⑤キャッシュバック、ラッキーマネー、クーポンなどで、ユーザーが特定の良い評価、「いいね!」、ターゲットを絞った投票などのインタラクティブ行動を行うよう誘導する行為。

⑥お気に入り追加数、クリック数、フォロー数、「いいね!」の数、閲覧数、購読数、リツイート数などのトラフィックデータの捏造。

⑦投票数、聴取数、観覧数、再生数、興行収入、視聴率などのインタラクティブデータの捏造。

⑧進学率、試験合格率、就職率などの教育・訓練効果の捏造。

⑨口コミの捏造、話題のでっち上げ、虚偽の世論ホットスポットのでっち上げ、インターネット就業者収入の捏造などを使ったマーケティイング。

商業上の中傷

『規定』第11条

 

• 商業上の中傷行為に当たる範囲を「競争相手の商業的評判又は商品の評判を侵害する恐れがある行為」にまで拡大している。

• 3つの典型的な商業上の中傷行為を列挙している。

①競合相手の商品に対して悪意を持って批評するように、他者に指示する行為。

②インターネットを通じて虚偽又は誤解を招く情報を広めるように、他者を利用し、又は他人に指示する行為。

③インターネットを使用して、虚偽又は誤解を招く情報を含む「リスクアラート」、「顧客通知」、「警告書」、又は「告発状」を広める行為。

• 商業上の中傷の共同実施を禁止する規定の新規追加:クライアント、アプレット及び公式アカウントの運営者、並びに投稿・コメントサービスを提供する組織又は個人は、故意に事業者と共同で前項の行為を行ってはならない。

 

2、『規定』では、5つのインターネット上の新型不正競争行為を規制している。

種類 規定

反向刷単

 

「反向刷単」とは、ネットショップが悪意を持って電子商取引プラットフォームの刷単禁止罰則を利用して、他の事業者の取引機会を減らすことを指す。『規定』第16条では、下記の反向刷単行為を明確に禁止している。

①他の事業者が「ライトダウン(検索エンジンが対象のウェブサイトに対して評価を下げること)」、「信用格付けの引き下げ」、「商品の撤去」、「リンクの切断」、「サービスの停止」などの処分を受けるよう、故意に他の事業者と短期間に大規模かつ高頻度の取引を行ったり、好意的な評価を与えたりする。

②悪意を持って短期間に商品を大量に落札した後、代金の支払いを行わない。

③悪意を持って商品を大量に購入した後、返品又は受け取り拒否をする等。

悪意遮断 悪意遮断とは、ネットショップが技術的手段を用いて、他の事業者のネット販売に影響を与えることを指す。

『規定』第17条には、「事業者は、特定の事業者が合法的に提供する情報コンテンツやページを阻止・遮断してはならず、他の事業者が合法的に提供するインターネット商品又はサービスの正常な運用を妨害・破壊したり、市場における公正な競争の秩序を乱したりしてはならない。」と明確にしている。

※上述の「特定の事業者」を如何に認定するかについては規定では明確にされていない。

二者択一

 

大手電子商取引プラットフォームがネットショップに「二者択一」を強行させるというやり方は大きな反響を呼んだ。『規定』第18条によると、禁止の対象となる「二者択一」行為は2つある。

①技術的手段を用いて、「ユーザー選択への影響」、「トラフィック制限」、「遮断」、「ライトダウン」、「商品撤去」などの方法で、他の事業者間の正常な取引を妨害する。

②技術的手段を用いて、「取引対象、販売地域・時間帯」、「販売促進活動への参加などを制限することで、他の事業者の事業選択に影響を与える。

※事業者の市場支配的地位の有無に関わらず、上述の規定は全ての事業者に適用される。

データの不正取得行為 『規定』第19条において、「事業者は技術的手段を用いて、他の事業者が合法的に保有するデータを不正に取得・利用したり、他の事業者が合法的に提供するインターネット商品又はサービスの正常な運用を妨害・破壊したり、市場における公正な競争の秩序を乱してはならない。」と明確にしている。

差別行為

 

『規定』第20条によると、「技術的手段を用いて、同一条件の取引相手に対して異なる取引条件を不当に提供する」行為は差別行為に該当し、明確に禁止されている。但し、下記の3つの状況は除外する。(1)取引慣習と業界慣例。(2)新規ユーザーを対象とする合理的な期限内の優遇活動。(3)公平、合理、無差別の規則に基づいて実施するランダム取引。

※事業者の市場支配的地位の有無にかかわらず、当該条項は全ての事業者に適用される。

上記以外に、『規定』では、『不正競争防止法』第12条に列挙された行為を「トラフィックハイジャック」、「悪意のある妨害」、「悪意のある非互換性などの行為」という3つの項目に分類し、第13-15条、第21条において規定を細分化している。

最後に、『規定』第27条によると、通報が集中したり、重大な結果やその他の悪影響を起こしたりした場合、実際の事業地、違法な結果の発生地において区を設けた市レベル以上の地方市場監督管理部門の管轄とすることができる。インターネット取引プラットフォームに対する苦情はプラットフォームの住所地で行うという従来の要求と比べ、『規定』におけるこの新たな変化により、事業者は異郷での通報や調査に直面する可能性が出てくる。恐らく迅速かつ効果的な苦情対応及び処理の仕組みを構築することが今後の重要な課題になるだろう。