過労死は労災認定として認められるか?

劉さんは東莞G社の包装作業員である。2017年10月13日21時22分、劉さんは打刻して退勤した。翌日8時頃、劉さんの妻が劉さんに代わり、上司に連絡し、病気休暇を申請した。その後、劉さんは病院に行って診察を受けた。同日11時30分、劉さんは意識不明となり、病院に搬送され救急処置を受けたが死亡し、「急死」と認定された。劉さんの遺族は労災認定を申請したが、地元の人力資源社会保障局は審査の上、労災に該当しないと判断した。劉さんの遺族は生命権紛争としてG社を訴えた。第一審と第二審の裁判所はいずれも劉さんの妻の請求を棄却した(詳細は(2020)粤19民終8318号を参照)。

朱さんは江蘇K社の運搬作業員である。2019年8月1日20時03分、朱さんは退勤後の帰宅途中に転倒し、翌日午前4時56分に遺体で発見された。上述の劉さんの事件と同様に、地元の人力資源社会保障局は、労災に該当しないと決定した。朱さんの遺族も生命権紛争としてK社を訴えた。一審裁判所は朱さんの遺族の請求を認めなかったが、二審裁判所は、K社に権利侵害責任の30%を負わせるという旨の判決を下した(詳細は(2022)蘇06民終了1678号を参照)。

上述の2つの事例は、いずれも「過労死」を理由に訴訟を起こしたが、なぜ判決が異なるのだろううか?

第一に、中国の現行法律には過労死に関する規定がないため、画一的な司法実務ルールがない。ここ数年、毎年行われる両会(注:中華人民共和国全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)においても過労死を法規制に盛り込む提案がなされてきたが、これまで人力資源社会保障部は、以下の3つの理由から現状維持が好ましいという姿勢を貫いている。(1)『労災保険条例』第15条において「労働時間中に職場で突発的な疾病で死亡した場合、または48時間以内に応急手当を受けたが死亡した場合、労災と見なす。」と規定している。当該規定は事実的に労災保険の適用範囲を拡大し、過労死した労働者の権益をある程度保障している。(2)医療技術、法律適用双方の立場において、過労死は判断しにくい。(3)『労働法』、『従業員年次有給休暇条例』、『安全生産法』などにおいて、企業が従業員の休息・休暇の権益を保障するための義務を定めているため、複数の角度から規制する必要がない。従って上記のような状況下において、過労死を理由に損害賠償を主張するための法的根拠がない。

第二に、『労災保険条例』では、労災とみなされる3つの状況が明確に規定されているため、労災と認定されるには相応の厳しい要件を満たさなければならない。労災認定の適用範囲は厳しい制限があり、冒頭の2つの判例はいずれその要件を満たしていなかったため、労災認定の行政手続において労災と認定されなかった。

労災として認められない場合、企業が権利侵害行為を行った場合にのみ、従業員の親族は権利侵害責任を主張することができる。権利侵害責任の成立要件は、侵害行為、損害事実、主観的過失、因果関係の4つである。過労死については、従業員の死亡が損害事実となり、他の3つの要件を「企業が従業員に過重労働をさせたことによる死亡」という一文にまとめることができる。証拠という角度からみると、冒頭2番目の事例において、朱さんの遺族は、企業が従業員を月に31日間連続勤務、また毎日残業させ、労働時間が法定の労働時間を著しく超えていたことを証明した。その結果、裁判官は、「このような労働時間は違法に当たるだけでなく、人間が耐えうる限界を超えているので、企業に一定の責任がある。」と判断した。しかし、企業側が負う責任の比率は、30%しか認められなかった。その理由としては、「従業員が自分の体に対する第一の責任者である」からだった。

以上のことから、企業は、従業員の残業を手配する際、頻度や時間の長さ等に注意を払い、「みなし労災」の発生確率と権利侵害責任のリスクを下げるよう尽力しなければならない。