特定の契約違反行為に対して複数の責任が約定された場合、どうなるか?
契約締結時、相手の行為を有効的に拘束し、違約のリスクを下げるために、当事者は複数の違約条項を約定することが多い。例えば、支払期限を過ぎた場合の延滞利息に併せて支払期限を過ぎた場合の違約金も約束する。しかし、このような約束は本当に有効であるのか?つまり、本当に支払期限を相手先が守らなかった場合に、延滞利息と違約金両方を主張することはできるのだろうか?
これは一概には言えない。
貸借契約については、現行の司法解釈では、どちらか選択、あるいは両方共主張することができると明確にした上で、その総額に上限を設けている。具体的には、『最高人民法院の民間貸借事件の審理における法律適用の若干問題に関する規定』第29条の規定によると、貸主と借主が延滞利息に加え、違約金またはその他の費用も約定している場合は、貸主は延滞利息、違約金またはその他の費用のどれか、またはそれらを合わせて主張することもできる。しかし、総額が契約成立時の1年物プライムレートの4倍を超えた部分は、人民法院は認めない。
その他の種類の契約については、法律法規及び司法解釈では明確に規定されておらず、司法実務においても観点が異なる。
観点1:合わせて主張することはできない。違約金と延滞利息はいずれも支払期限を過ぎた代金支払という1つの行為に基づいており、かつ損失は主に利息損失であり、延滞利息を認める場合、その損失をカバーできるからである。例えば、(2020)最高法民申1964号事件において、最高裁判所はこの見解を示し、「資金占用費と契約解除違約金はいずれもX社が支払期限を過ぎた代金支払という単一行為によるものである。また支払期限を過ぎた代金支払の損失は主に利息損失であるため、一審判決と二審判決は「T社が年利24%で延滞利息を計算する」という主張のみを認め、契約解除違約金という主張は認めなかった。延滞利息は、X社の支払遅延によりT社が被った損失を補うのに十分である」と指摘した。
観点2:延滞利息と違約金は性質が異なるため、合わせて主張することができる。例えば、(2020)最高法民終1310号事件において、最高裁判所は「工事代金の延滞利息と支払遅延違約金はいずれも支払遅延行為に基づく責任であるが、性質が異なる。工事代金の延滞利息は法定利益に該当する。支払遅延違約金は当事者間の約定によるもので、補償性と懲罰性を有し、当事者による積極的な契約履行を促し、当事者間の合理的な希望を守り、取引の安全性を促進する。工事代金の延滞利息と支払遅延違約金を同時に認めてはならないというR社の控訴事由は成立せず、認められない。」と指摘した。
多くの事案においては、上記の2つの絶対的な意見とは異なり、裁判所は原則として、延滞利息と違約金の主張を同時に認める一方、利益のバランス、信義誠実の原則、公平の原則などを踏まえ、かつ個別の事件の様々な要素を考慮した上で、適切な調整を行うという姿勢を取っている。例えば、(2017)最高法民終820号事件において、裁判所は「契約の約束に従えば、Z社はJ社に対して残りの前払金9320万元を返却し、同時に9320万元相応の違約金と延滞利息を支払うべきである。しかし、当時の多結晶シリコンの市場環境の急激な悪化、業界発展の不景気に鑑みると、関連する市場主体は生産制限、販売制限により損失の拡大防止をするのが一般的で、実態に合い、道理にかなっている。このような市場環境の下で、契約者双方は本来互いに配慮しなければならないが、いずれも相互配慮義務を尽くしていない。」と指摘した。最終的に裁判所は延滞利息と違約金の総額を調整し、「Z社が前払金を返還し、かつ中国人民銀行の同期同類貸付基準金利で資金占用期間の利息を支払う」ことを命じた。
契約当事者は相手の違約行為を拘束する手段として、複数の違約責任を約束することができるが、相手が実際に違約した場合、責任の追及可能範囲に大きな期待をしてはいけない。もちろん、訴訟になった場合は、裁判官に利益のバランス、信義誠実の原則、公平の原則を踏まえ、自らの主張を認めてもらうため、できるだけ各方面からの自分に有利となる証拠や説明を提供するべきである。