『知的財産権濫用による競争排除・制限行為禁止に関する規定』

市場監督管理総局は先日、『知的財産権濫用による競争排除・制限行為禁止に関する規定』(以下『新規定』という)を公布し、2023年8月1日より施行する。『独占禁止法』の関連規定の一つである『新規定』は、19条だった『知的財産権濫用による競争排除・制限行為禁止に関する規定』(2020年版)(以下『旧規定』という)から、条文が33条に増加し、以下のような改正が行われた。

一、知的財産権の濫用に係るカルテルについては、

改正ポイント

1

『旧規定』第3条ではカルテルの「実施」のみを定めていたが、『新規定』ではカルテルの「達成」時にまで遡る。

2

第6条において、「事業者は知的財産権の行使により他の事業者を組織してカルテルを達成したり、他の事業者によるカルテルの達成に実質的な支援を与えてはならない」ことが新たに追加された。

3

『新規定』第18条では、事業者が「正当な理由なく」標準の制定と実施を利用してカルテルを達成してはならないとされる状況を新たに追加した。

①競争関係にある事業者と連携し、特定の事業者の標準制定への関与を排斥、或いは特定の事業者の関連標準技術案を排斥する場合。

②競争関係にある事業者と連携し、他の特定の事業者による関連標準の実施を排斥する場合。

③競争関係にある事業者と他の競争的標準の不実施を約束する場合。

④市場監督管理総局が認定したその他のカルテル。

4

『新規定』第25条では、「事業者が他の事業者を組織し、カルテルを達成したり、他の事業者によるカルテルの達成に実質的な支援を与える」行為について明確に禁止した。

『カルテル禁止規定』第18条第2項の規定によると、上述の「実質的な支援を与える」とは、「必要な支援を与えること、重要な利便条件をつくること、またはその他の重要な支援を含む」こととしている。

注:どのような行為が知的財産権を利用した「実質的な支援を与える」行為に該当するかについては、今後の司法実務における判例が指針となる。

 

二、市場における支配的地位の濫用については、

事項 改正ポイント
1.市場における支配的地位認定のための特別な条件要素の追加 知的財産権の特殊性に鑑み、『新規定』第8条において、「知的財産権所有事業者が関連市場において支配的地位にあるか否かの認定時には、関連市場で取引相手が代替関係にある技術や製品に転向する可能性及転向コスト、下流市場の知的財産権利用に基づく商品提供への依存度、取引相手の事業者に対する制約能力などの要素についても考慮することができる」と第3項の規定を新規追加した。
2.不公平な高値に関する規定の新規追加 『国務院独占禁止委員会の知的財産権分野に関する独占禁止ガイドライン』第15条をもとに、『新規定』第9条において、「市場における支配的地位を有する事業者は、知的財産権行使の過程において知的財産権を不当な高値で許諾したり、知的財産権を含む製品を販売することにより、競争を排除・制限してはならない」と新たに追加された。

前項の行為認定時は、下記の要素が考慮される。

①当該知的財産権の研究開発コストと回収期間。

②当該知的財産権のライセンス料の計算方法とライセンス条件。

③当該知的財産権と比較できるこれまでのライセンス料又はライセンス料基準。

④事業者が当該知的財産権のライセンスに対する承諾。

⑤考慮すべきその他の要素。

注:企業が知的財産権の研究開発のために大量のコスト投入を必要とし、また知的財産権の限界効用が低いという特徴を考慮し、「当該知的財産権の研究開発コストと回収期間」が考慮要素に取り込まれた。

3. 「限定取引行為」の種類の増加 『独占禁止法』第17条との一致のために、『新規定』第11条では、禁止対象となる限定取引行為において「限定取引相手は特定の事業者との取引を行なってはならない」という項目を新たに追加した。
4.抱き合わせ販売行為についての改正 『新規定』第12条では2種の抱き合わせ販売行為が削除された。①異なる商品の強制的なバンドル販売や組み合わせ販売。②抱き合わせ販売行為により、当該事業者の抱き合わせ販売品市場における支配的地位を抱き合わせ販売対象品市場に拡大し、他の事業者の抱き合わせ販売品市場または抱き合わせ販売対象品市場における競争を排除・制限するもの。そして、新たに以下の2種を追加した。①知的財産権を許諾する際に、許諾者に他の不要な製品の購入を強要する、または別の手段で強要する。②知的財産権を許諾する際に、許諾者に一括許諾の承諾を強要する、または別の手段で強要する。
5. 不合理な取引条件付加に関する規定の改正 知的財産権を有していないものについては、事業者が不合理な取引条件を付加しても利益を得ることはできない。従って、『新規定』第13条では、事業者が付加した「(四)保護期間が満了した又は無効と認定された知的財産権に対して引き続き権利を行使すること」という不合理的な取引条件を削除し、権利の転送においても、不合理な取引条件として「排他的」転送の禁止、「合理的な対価を提供せずに、取引相手に同じ技術分野のクロスライセンスを行わせる」ことの禁止が付け加えられた。
6. 「パテントプール」関連規定の改正 『新規定』第17条では、パテントプールを利用した市場における支配的地位の濫用行為3種を新たに追加した。

①不公平な高値でパテントプールを許諾する。

②正当な理由なく、パテントプールメンバーまたは許諾される人の特許使用範囲を制限する。

③正当な理由なく、強制的に競争的特許を組み合わせて許諾するか、または必須ではない特許、終了済みの特許を他の特許と強制的に組み合わせて許諾する。

7. 「善意の交渉なしに」禁令の救済を求めてはならないという規定の新規追加 『新規定』第19条では、「標準必要特許の許諾過程において、公平、合理、無差別の原則に違反し、善意の交渉を経ずに、裁判所またはその他の関係部門に対して関連知的財産権の使用を禁止する判決、裁定、決定などを求めることで、許諾者に不当な高値やその他の不合理な取引条件を納得させる。」ことが新たに追加された。

 

三、知的財産権に係わる事業者集中の規定の新規追加

『新規定』第15条では、「知的財産権に係わる事業者の集中が国務院が規定する申告基準に達した場合、事業者は事前に市場監督管理総局に申告しなければならない。」ことを定めている。これは、『独占禁止法』と一致する。

知的財産権に係わる事業者の集中審査において、『新規定』第16条では「国務院独占禁止委員会の知的財産権分野に関する独占禁止ガイドライン」第24条をもとに、「知的財産権に係わる経営者の集中取引の具体的な状況に応じて、付加的な制限条件は以下の4つの状況が含まれる。①知的財産権又は知的財産権に係わる業務からの撤退。②知的財産関連業務の独立運営を維持。③合理的な条件における知的財産権の許諾。④その他の制限的条件。」ことを定めた。

なお、『新規定』第25~28条における行政罰の内容は基本的に『独占禁止法』第56~59条、第63条と概ね一致し、つまり、処罰規則が一致している。