実習生受け入れに伴うリスクを把握しているか?
企業は主に以下の2つのメリットから実習生を使用する。コストが低く、賃金を日割りで支払うことができ、社会保険料を支払う必要がない。さらに、労働契約を締結する必要がなく、柔軟に使用、終了ができる。
しかし、企業は実習生の使用に伴う潜在的なリスクを理解しておかなければ、雇用関係に縛られるだけでなく、労働関係よりも大きな経済的代価を支払うことになる可能性がある。これに対して、「そんなはずはない」と驚くHRも必ずいるはずだ。残念ながら、これは大げさな話ではない。
- リスク1: 不適切な取扱いにより、実習は労働関係と認定される可能性がある
元労働部が1995年に公布した『〈中華人民共和国労働法〉貫徹執行の若干問題に関する意見』(以下『1995年意見』という)第12条には、「在校生が余暇を利用して行うアルバイトは、就職とは見なされず、労働関係を確立しないため、労働契約を締結する必要はない。」と規定している。従って、多くのHRは、「卒業していない場合はいずれも実習に属し、労働関係が存在するはずがない」の理解に留まっている。
時代の変遷に伴い、司法実務も変わっている。まずは、以下の2つの典型的な判例を見てみよう。
2010年第6期『最高人民法院公報』に掲載された「郭氏がY社を訴えた労働紛争案件」では、裁判所は、以下のことを理由に、「郭氏の実習期間内は双方間の労働関係が存在する。」と認定した。①郭氏は満19歳で、『労働法』で規定された就業年齢に達しており、雇用企業と労働関係を構築する行為能力と責任能力を備えていた。②『1995年意見』第12条から、在校生が労働関係の主体資格を有しないと推定することができない。③郭氏は実習時に全ての課程を修了しており、Y社に対して就職の希望を伝え求職登録を行っており、郭氏卒業後に双方は労働契約を締結した。
(2022)京03民終13681号案件では、裁判所は、「実習期間内の社会保険料の未納を除いて、勤怠管理や賃金支給などは在職従業員と同じである。就業実習時、双方は労働契約の締結及び労働関係の構築を目的としており、社会保険における一定の特殊性は存在するが、他の面において正社員とは実質的な区別がない。実習生は学生の身分を有しているが、基本的に全ての課程を修了しており、管理において雇用企業の管理を認めている傾向があり、人格的にも経済的にも明らかに従属性があり、労働関係の実質に符合しているため、双方間で労働契約関係が構築されていたと認定すべきである」とし、「趙氏卒業前の実習は労働関係に該当する。」とした。
多くの判例からみて、裁判所は、労働関係に該当するか否かを判断する際、主に下記の要素を考慮している。
第一に、実習の目的。学校で統一的に手配された実習活動の場合は、通常、労働関係と認定されない。『一般大学実習管理業務の強化・規範化に関する教育部の意見』、『職業学校学生実習管理規定』ではいずれも、「このような実習は教育の一部に属する」と明確にしている。又、実務において、学校と実習生が協議書を締結する必要があるので、労働関係の構築は認定されない。『1995年意見』でアルバイトは労働関係と認定されないと定められているが、実務においては、協議書において双方はアルバイトの目的を明確にしておいたほうがよい。企業が個別の実習を受け入れる過程で、実習生が就職の意思を表明し、企業が受入る意思表示をした、特にその後、労働契約を締結した場合は(上述の2つの判例のように)、その他の要素を総合的に考慮した上で、実習期間中の労働関係が存在すると認定されるリスクが比較的高い。
第二に、実習時に全ての課程を修了しているか否か。これについて、裁判所は通常、実習生に証明を求める((2017)鄂01民終7429号)。
第三に、賃金報酬の基準及び支払い。主に報酬を支払ったか否か、支払った場合は在職者と同等であるか否かによって判断する。
第四に、職位及び仕事内容。職責が明確・独立しているもので、勤怠管理などが明らかに労働関係の特徴を示している場合は、その他の要素と総合的に考慮し、労働関係と認定される可能性が比較的に高い。
従って、HRは以上の面からリスクを考慮し、実習生との関係などを適切に取り扱うべきである。
- リスク2: 安全配慮と権利侵害責任
判例からみて、実習期間内における人身傷害などによる権利侵害紛争は珍しくない。
『企業従業員労災保険試行弁法』では、労災保険に加入している企業で実習中の労災事故が発生した場合は、当地の労災保険取扱機構が一括で給付することを定めていたが、当該文書は廃止された。現行の労災保険関連規定によると、実習生の身分というでは、労災保険取扱機構又は雇用企業に労災保険補償の給付を要求することができない。
司法実務において、裁判所の判断で、双方が実習という名目のもと、実際には労働関係に該当すると認定された場合は、雇用企業が労災保険補償責任を負う。
下記のいずれかの状況に該当する場合は、通常労働関係と認定されない。
(1)学校が実習を手配する場合。『安全生産法』第28条第3項には、「生産経営企業が中等職業学校、高等学校の学生の実習を受け入れる場合、実習生に対して相応の安全生産教育と訓練を行い、必要な労働防護用品を提供する。学校は生産経営企業が行う実習生の安全生産教育と訓練に協力する。」と規定している。従って、状況に応じて、生産経営企業と学校の責任の負担要否及び割合が判断されるため、それぞれの義務の履行を確認する必要がある。 (2021)粤13民終9757号案件では、惠州中級裁判所は、「事故発生時のCの仕事と、W社から指示された測量・製図の仕事とは関連性があり、事実上Cが雇用活動に従事する中で人身傷害を受けたと認定すべきである。W社はCのかつての実習先、事実上の雇用者、直接管理義務者であるにもかかわらず、安全の注意義務・配慮義務を尽くさなかった。その結果、Cは仕事中に人身傷害を負った。W社は30%の雇用者の主要な賠償責任を負うべきである。」と判断した。その他の施工企業、学校及び本人も一定の割合で責任を負う。
(2)企業が個別の実習を受け入れる場合。個別案件では、裁判所は労務関係処理し、実態に応じて企業に対し相応の割合の責任を求める。
以上のことから、賠償リスクを低減するために、まず、企業はできる限り実習生をリスクの高い職位に配置しないこと、実習生に対して作業前の安全訓練をしっかりと行うこと。そして、雇用者責任保険などの商業保険において、実習生向けの保障条項を織り込むことが望ましい。