交通事故による車両価値下落の損失についての賠償請求はできるか?

李さんの車が追い越し時に1か月前に購入したばかりの王さんの新車に追突した。最終的に交通警察は「李さんに全責任がある」と認定した。王さんの新車は4S店で修理されたが、重大な損傷を受けたため、車両の価値が大幅に下落した。保険会社の賠償範囲は車両価値の下落による損失をカバーしていない。では、王さんは李さんに当該損失を賠償させることができるか?

現行の法律法規は、車両価値の下落による損失を財産損失の賠償範囲に入れていない。最高裁判所は2016年の『「交通事故車両価値下落による損害賠償の提案」に対する返答」において、「原則として車両価値下落による損害賠償の請求を認める傾向はない」という観点を示した。その主な理由は以下の通りである。一、損益が相殺されるか否かには疑問がある。例えば、修理における部品交換により割増金が発生する可能性がある。2、中国道路交通の実況を踏まえて、車両価値の下落による損失を賠償することは、道路交通関与者の負担を重くし、社会経済の発展にも不利利益をもたらす。3、車両価値の下落による損失の確定が科学的でない場合は、公正を損なう。現時点で中国の鑑定市場はまだ規範化されていないため、鑑定機構は車両価値の下落による損失の確定に利益を図るための大きな任意性がある。車両価値の下落による損失の確定が科学的でないことにより、実質的に不公正をもたらし、権利侵害者の負担を重くする可能性がある。4、裁判所の訴訟審理の負担を重くする。車両価値の下落による損失で、本来訴訟にならない交通事故案件が裁判所に押し寄せる可能性があり、紛争の減少に不利となる。

どのような場合に、裁判所は例外として車両価値の下落による損失賠償請求を認めるか?下記の典型的な判例を見てみよう。

『最高人民法院の権利侵害案例の指導と参考(第二版)』に記載される(2018)新民再85号の判例において、裁判所は、「案件に係る車両は購入後わずか数日で道路交通事故により破損した。持ち主のA氏は本件車両の破損に対して何の落ち度もなく、交通管理部門の判断で全責任はB氏にあると認定されている。車両の修理費用は78878元に達したが、修理後もなお「トランクリッドが安定しない、テールランプの隙間が大きすぎる、シフトポジションの切り替えが利かない」などの問題が残っている。これらの事実は、本件車両が修理後に使用できるが、その安全性、運転性能が低下し、価値の明らかな減少を示している。従って、A氏による車両価値下落による損失賠償請求を認めた。」と指摘した。

北京第二中級人民法院は(2020)京02民終2927号判決において、「本件発生時に、案件に係る車両は購入後半年経たばかりで、走行距離は6232.5キロメートルだけで、車両は確かに比較的に新しい。今回の落下物による車両破損事件による車の塗装及びガラスの交換が必要な面積は広く、エンジンカバー及び関連部品の交換も必要となる。ある会社が発行した評価報告書によると、この車両価値の下落による損失は約52000元である。一審裁判所は車両購入から事故までの期間、走行距離、車両損傷と修復程度を総合的に考慮し、評価報告書を参照した上で、今回の事件による当該車両の価値下落による損失は加害者Bが賠償すると認定した。当該認定は法において根拠がある。」と指摘した。

上海市奉賢区人民法院は、「財産損害は通常埋め合わせの原則を適用するが、本件において損傷を受けた車両は事件当日に引き渡された新車であるが、当該車両の2カ所のフレームは損傷した。切断・溶接による修理で重大な損傷を受けたので、当該車両の全体構造の信頼性に対して一定の影響を与えるに違いない。評価意見書を踏まえて、本件事故により、車番滬XXXの車両は価値下落による損失が発生した。原告の当該損失は被告が賠償するべきである。」と指摘した((2019)滬0120民初24441号)。

以上のことから、車両価値の下落による損失賠償請求が裁判所に認められるためには、少なくとも「新車相当と見做される(購入から事故までの期間が短く、走行距離が少ない)、重大な損傷を受けた(修理後も全体的な性能への影響を免れない)」の 2つの条件を満たす必要がある。通常、車両価値の下落による損失額を証明するための鑑定評価報告書を提出する必要もある。