フラットフォームの「セーフハーバー」が消えているか?

『譚談交通』というビデオが各プラットフォームから削除されたというニュースが注目を浴びている。インターネット権利侵害事件において、権利者は権利保護措置を講じるが、その一方でプラットフォームに責任を追及することも多い。

米国「デジタルミレニアム著作権法」に由来する「セーフハーバールール」は、ネットワークプラットフォームのためのセーフハーバーを構築した。つまり、明らかな権利侵害行為を無視し、相応の措置を取らない場合を除いて、ネットワークプラットフォームは「セーフハーバールール」に基づき免責とすることができる。

近年、立法と司法における変化は、ネットワークプラットフォームの「セーフハーバー」は縮小を示している。つまり、ネットワークプラットフォームの「セーフハーバー」が絶対的に安全な存在ではなくなったと言える。

  • 立法の角度からみると、ネットワークサービス提供者に対する要求は「通知-削除」から「通知-必要な措置」、義務は単一的なものから多様的なもの単純なものから複雑なものがある。 

2006年7月1日から施行されている『情報ネットワーク伝播権保護条例』によると、ネットワークサービス提供者は権利者から通知を受けた後、直ちに権利侵害製品を削除し、リンクを切断する義務、いわゆる「通知-削除」義務を負う。

『権利侵害責任法』が2010年7月1日に施行後、ネットワークサービス提供者の義務は、削除、ブロック、リンク切断など必要な措置を講じること、即ち「通知-必要な措置」義務に拡充された。「など」という表現により、ネットワークサービス提供者の義務は「決められた」ものではなく、「一部の列挙」であることを示しており、権利侵害製品の削除とリンクの切断だけに止まらない。その後『電子商取引法』(2019年1月1日施行)により、ネットワークサービス提供者が講じるべき必要な措置の種類が、さらにアップグレードされ、取引とサービスの終了についても追加された。

最後に、2021年1月1日より施行されている『民法典』は、『電子商取引法』と『権利侵害責任法』の規定を織り込み、法典によりネットワークプラットフォームの「通知-必要な措置」という「セーフハーバールール」の原則”の内包を固定した。

  • 司法実務からみて、「セーフハーバールール」によって責任を負う必要がないことを主張できる余地が小さくなっている。具体的には、

第一に、瑕疵通知の効力が認められている点だ。

2012年浙江泛亜電子商務有限公司と北京百度網訊科技有限公司、百度在線網絡技術(北京)有限公司の著作権侵害紛争案件において、最高裁判所は、「著作権者である泛亜会社はその作品について最も詳細に把握しており、検索エンジンサービス提供者が権利侵害リンクを正確にブロックする適切な情報を提供できる条件を最も備えている。弁護士の公文書によると、泛亜会社は歌手の名前については提供していない。歌の名前だけでは正確なフィルタリングの効果を達成できないのは明らかなため、被告が適時に合理的な措置を講じず、権利侵害リンクを切断しなかったことによって起こった結果に対して、自ら相応の責任を負うものとする。」と認定した。その時、裁判所は「ネットワークサービス提供者が「通知-削除」義務を履行することは、権利者が正確な権利侵害リンクを提供し、通知内容において明確的かつ具体的な要求を示したことを前提とする。」と判断したと考えられる。

2021年北京愛奇芸科技有限公司が北京字節跳動科技有限公司を訴えた『延禧攻略』の情報ネットワーク伝播権侵害事件において、愛奇芸会社は字節会社に対して20通以上の警告状・弁護士書簡を送り、このドラマの権利帰属、放送プラットフォーム、放送計画などを通知した。北京の裁判所は「上述の手紙の内容だけでは、字節会社に対して権利侵害に係る全てのショートビデオを直ちに削除する義務を履行させることはできない。しかし、字節会社はプロのショートビデオプラットフォームの経営者として、ユーザーの権利侵害行為に合理的かつ充分な関心を寄せ、大規模又は深刻な権利侵害による影響を制止・予防する必要があり、上記の手紙の内容瑕疵のみを理由に、完全に無視するような態度をとるべきではない。」と判断した。

第二に、「必要な措置」が、事後の削除遮断から事前のフィルタリング遮断に拡張し、形式的要件から実質的要件まで満たす点だ。

2013年広東中凱知的財産サービス有限公司と凌源市情報ネットワーク管理センター、中国共産党凌源市委員会弁公室の著作権侵害紛争事件において、最高裁判所は、「中凱サービス会社は、凌源情報センターによりリンクを張られたサイトの権利侵害を認識していた、又は認識すべきだったかに関わらず、検索やリンクサービスを提供したことを立証しなかった。中凱サービス会社のクレームを受けた後、凌源情報センターはリンクを張られたサイトとのリンクを切断したため、権利侵害責任を負う必要がない」と判断した。2014年北京中青文文化伝媒有限公司等の著作権帰属、権利侵害紛争案件において、北京の高級裁判所は、「ネットワークサービス提供者はその作品がベストセラーであるか否かの情報を得るルートがない。仮にその作品がベストセラーであることを認識したとしても、ネットサービス提供者に対して、限られた情報に基いたキーワードを設定し、さらにブロッやクフィルタリングする義務を与えることは、合理的な情報の伝播を妨げ、情報の交流と共有に不利になる。」と指摘した。

2021年深圳市テンセントコンピュータシステム有限公司、テンセント科技(北京)有限公司、重慶テンセン情報技術有限公司が北京微播視界科技有限公司、重慶天極魅客科技有限公司を訴えた訴訟の前の著作権侵害差止請求の仮処分命令を申し立てた案件において、重慶の中級裁判所は北京微播会社に対して、「闘羅大陸」のアニメ作品の情報ネットワーク伝播権を侵害する全ての動画を、アプリ「抖音」から削除するための、かつユーザーがアップロード・伝播した「闘羅大陸」のアニメ作品の情報ネットワーク伝播権を侵害する動画をフィルタリング・遮断するための有効な措置を講じるよう命令した。

上述の『延禧攻略』の情報ネットワーク伝播権案件において、裁判所は、「字節会社は、ユーザーがアプリ「今日頭条」を通じて、字節会社の情報記憶空間と情報フロー推薦サービスを利用して、『延禧攻略』の情報ネットワーク伝播権の侵害行為を実施したことを認識していたはずである場合、削除、ブロックなどの措置を確実に実施しており、法による相応の措置を講じるという要求を満たしている。しかし、本件証拠による実際の処理結果から見て、その時に字節会社が取った措置は、明らかな権利侵害を有効に制止・予防するという実質的要求には合致しない。本件において字節会社が講じた関連措置は「必要充分」な程度に達していないと認定すべきである。」と判断したのは偶然ではない。

技術の進歩に伴い、ネットワークプラットフォームの「セーフハーバー」は消えつつあるようだ。削除、ブロック、リンク切断以外に、ネットサービス提供者は自主的審査、フィルタリング、遮断などの義務を負う。「セーフハーバー」のおかげで「枕を高くして眠ることができる」という時代はもう二度と戻ってこない。