GPSによる勤怠管理は違法?

甲社の『就業規則』及び『外勤・出張勤怠管理』には、外勤職員に対する勤怠管理をGPSを利用して行うことが定められている。甲社は営業のY氏に社用スマホを支給していたが、Y氏が勤務中にスマホの電源を何度も切ったため、Y氏に対する勤怠考課は正常に進められなかった。そして甲社は無断欠勤を理由にY氏を解雇した。Y氏は、「GPSを利用して勤怠管理を行うことは、プライバシー侵害に当たるため、甲社の関連規定は無効であり、さらに甲社による解雇も違法である。」と主張し、労働仲裁を提起した。

2018年に発生した上記の事案は、最終的に蘇州裁判所により「甲社による解雇は不正ではない」と認定され、Y氏の請求は棄却された(詳細については(2018)蘇0402民初5721号を参照)。しかし、『個人情報保護法』施行後も、GPSを利用した勤怠管理を行ってもよいだろうのか?

GPSによる勤怠管理は、従業員の位置情報を取得する必要があるが、位置情報はセンシティブ個人情報に該当する。『個人情報保護法』第13条第2項によると、適法に制定された労働規章制度及び適法に締結された集団契約に基づき人事管理を実施する上で必要な場合、個人情報取扱者は個人情報を取り扱うことができ、個人の同意を取得する必要がない。一方、同法第29条では、センシティブ個人情報を取り扱う場合、本人の同意を個別に取得しておかなければならないと定めている。懸念点は、企業が従業員のセンシティブ個人情報を取り扱う場合、従業員から個別の同意を取得する必要があるか否かについて、法令で明確にされていない点である。このような背景下では、リスク最小化のために、従業員から個別に同意を取得しておくことが最も妥当な対処法である。では仮に今後、使用者が『個人情報保護法』第13条第2項で定められた範囲内でセンシティブ個人情報を取得しようとする場合、従業員から個別の同意を取得しておく必要がない、という規則を立法機関または司法機関が採用すれば、企業は任意でGPSによる勤怠管理を行うことができるのだろうか?実際はそうとも限らない。

法規定の有無を問わず、企業がGPSによる勤怠管理を行う場合、まず重要なことはGPSによる勤怠管理の目的と必要性をきちんと説明し、できる限り従業員の理解を得ることである。そうしないと、仮に従業員の同意、署名を得たとしても、従業員の反感を買ったり、或いはプライバシー侵害に対する不安などネガティブな心理状態を与えることになる場合は、従業員のやる気や安定性に不利に働き、結果勤怠管理の趣旨に背くことになる。従業員の理解を得ることはHRにとって大きなチャレンジである。従業員の心配と抵抗感を失くし、理解を得るために、HRは道理と根拠に基づいて、GPSによる勤怠管理の目的、対象者、具体的なツール、対象情報の範囲などを事前に説明しておく必要がある。

実務において、GPSによる勤怠管理を行うときは、以下のポイントにも留意すべきである。

第一に、GPSツールの選択。総じて言えば、個人所有の設備と比べ、企業から支給される設備を使用する場合、リスクは小さい。企業は各自のニーズに応じて多種多様なツールから、相応しいものを選択することができる(WeChat、DingTalkなど)。個人情報や資料の混同を防止し、企業の商業秘密を保護するために、従業員には企業公式WeChat・DingTalkアカウントなどを使用させるのが良いと思われる。

第二に、対象者の範囲。GPSを利用した勤怠管理を従業員全員に行う必要がないことは明らかだ。通常では、運転手、販売担当者、アフターサービスなど、勤務場所が不特定になる者が対象者となる。

第三に、管理の合理性と限界。例えば、通常、GPSによる勤怠管理は労働時間に限定される。また、不定時労働時間制又は総合計算労働時間制の場合は、場所で限定することができる。時間又は場所の設定が不合理な場合は、法的リスク又は予想外のコストを引き起こす。例えば、使用者が、「従業員に対して24時間のGPSによる勤怠管理を行うことができる」というような規定を定めた場合、従業員がプライバシー侵害を主張する、又はGPS監視を受けるいかなる時間及び時間帯が労働時間に該当するため、残業代を支払うようにと要求してくる可能性がある。