企業の登記上の住所地と実際の所在地が一致しない場合はどうなるのか?

実務において、企業の登記上の住所地と実際の所在地が一致しないケースは珍しくない。その理由は、移転後に直ちに登記上の住所地を変更しなかったことや、優遇政策を享受するために登記上の住所地を選択し登記手続する、便利を図るために登記上の住所地を実際の所在地とせず、実際の所在地を別途選択することもある。工商管理において、登記上の住所地と実際の所在地が一致しないことは許されるが、慎重に対処しなければ、場合によっては企業の事業活動に影響を及ぼし、リスクや余分なコストを引き起こし兼ねないため、重要視されるべきである。

まず、訴訟に係る影響について主に以下の2つの状況に分けて検討する。

1、契約締結時に約定された住所地が事後に変更された場合。例えば、浦東新区のA社とB社は2019年に契約締結時に「本契約に係る紛争は、甲の住所地の人民法院による管轄を受ける」ことを約定し、2020年A社は長寧区に移転した。その後、A社とB社の間で紛争が起こった。この場合に、案件は浦東裁判所による管轄を受けるか、それとも長寧裁判所による管轄を受けるか?『<中華人民共和国民事訴訟法>の適用に関する最高人民法院の解釈(2020改正)』第32条によると、当事者間の別途約定がある場合を除き、契約締結地の人民法院による管轄を受ける。従って、企業は実際の所在地、管轄を自ら選択したい場合、契約締結時に相応の約定を行っておくべきである。

2、登記上の住所地は未使用で、他の住所地を選択して実際に事業を行っているが、申告を行っていない場合。この場合、裁判所は登記上の住所地への送達ができず、公示送達を余儀なくされることが多い。公告期間内に被告側の企業が公示送達を受けとれない場合、応訴できなくなり、さらに信用を喪失することになる執行債務者名簿に入れられるなど思いがけないことも起こる。公示送達を減らし、当事者の訴訟費用や手間を省くために、北京高級裁判所と北京市市場監督管理局が、上海高級裁判所と上海市市場監督管理局が共同で公布した規定によると、法律文書が裁判所から、企業の確認を経た送達住所まで届けられた後、受け取られなかった場合は、不可抗力、意外事件又は企業が自ら失態がないことを立証できる場合を除き、送達済みと看做される。企業の確認を経た送達住所は、初期の送達住所(登記上の住所地)と予備的な送達住所を含む。言い換えれば、登記上の住所地以外で事業を行う場合は、年間申告を行うときに、予備的な送達住所を申告するように注意すべきである。

次に、企業の知的財産権保護に係るリスク。登録商標、特許などの知的財産権を保有している企業は住所地を変更するときに、一連の変更手続を適時行わなければならない。さもなければ、リスクに直面する。例えば、第三者が企業の商標登録の無効を申請した後、商標局からの関連文書が届いていないので、抗弁の機会を逃した。(《法律記事》第73期―『商標権者の住所や氏名等情報を変更した場合の留意点』の文章をご参考ください。)

又、注意すべきことは、住所地の変更に伴い、取引銀行、税務情報、社会保険情報、輸出入及び他の資格・証明書・許可証に係る情報も変更する。相応の変更手続を適時行わない場合は、予測不能なリスク、労働力・財力によるコストは大きくなる。