駐在員の職務発明の権利の帰属

Aは日本M社の指示により中国にある関連会社の技術部の責任者を務めていた。僅か数か月で技術的な難関を切り抜け、大きな発明をした。当該発明は日本M社の所有に属するか、それとも中国の関連会社の所有に属するか。職務発明の報酬は如何に計算するか、双方どちらが支払うかについて、日本M社と中国の関連会社の意見は一致しない。

中国『特許法』第6条には、「当該組織の職務を遂行し、又は主に当該組織の物質・技術的条件を利用して完成した発明創造は職務発明創造とする。職務発明創造について特許出願を行う権利は当該組織に帰属し、出願が認可された場合は当該組織を特許権者とする。……」と規定している。本件において「当該組織」は日本M社を指すのか、それとも中国の関連会社を指すのか?

『特許法実施細則』第12条の規定によると、当該組織は臨時的な勤務先も含まれる。司法実務からみて、企業と労働契約を締結している場合も、特定の任務を遂行するために使用者と臨時的な役務関係を構築している場合も、いずれも「臨時的な勤務先」の範疇に含まれている((2017)京73民初1588号、(2017)滬73民初350号)。言い換えれば、駐在員が中国の子会社と労働契約を締結したか否かは、職務発明帰属の判断要素ではない。

駐在員の職務発明の帰属を判断するためのポイントは、当該職務発明の創造は、親会社の任務を遂行するために完成したものであるか、それとも中国の関連会社の任務を遂行するために完成したものであるか、又どちらの物質・技術的条件(資金、設備、部品、原材料、対外的に公開しない技術資料など)を利用して完成したものであるかにある。本件のように職務発明完成後に職務発明の帰属について双方の見解が一致しないことを避けるために、海外派遣元と国内派遣先は、事前に職務発明の奨励、報酬、支払なども含めて職務発明の帰属を約定し、駐在員の認可を得ておいたほうがよい。

『特許法実施細則』第78条の規定によると、権限を授けられた組織が発明者、考案者と約定を行っていない、又は規則制度で報酬を定めていない場合、売上高又は許諾使用料の一定の割合で報酬を支払う。職務発明の奨励、報酬を約定していない状況で、駐在員の職務発明権が海外派遣元に帰属することを約定した場合、司法機関は、国内派遣先と労働契約にある駐在員が国内派遣先に職務発明の報酬を求める主張を認める可能性が高い。典型的な「3M」職務発明案件の判決では、以下の観点及び理由を示した。「法により、特許発明の実施後、企業は普及・応用の範囲、獲得した経済的利益により、発明者に対し合理的な報酬を与えるべきである。本件において3M社とその関連企業の合意に基づき、係る発明は3M創新公司が特許を出願して特許権を獲得した。但し、特許法における「発明者に報酬を与える」とうい規定の意図は、発明者が獲得すべき労働報酬を得ることにあり、当該報酬を獲得する合法的な権利は、多国籍企業内部の合意により侵害されるべきではない。本件において3M中国公司は発明の特許権者ではないが、張偉鋒の雇主であるので、依然として張〇〇に対し職務発明の報酬を支払うべきである。」