『知的財産権侵害民事案件の審理における懲罰的賠償の適用に関する最高人民法院の解釈』が2021年3月3日より施行 

近年、改正『商標法』、『著作権法』、『特許法』ではいずれも、懲罰的賠償関連条項を盛り込んで、法定賠償額の上限を引き上げたが、懲罰的賠償の適用条件及び考慮要素を明確にしていない。2021年3月2日、最高人民法院は『知的財産権侵害民事案件の審理における懲罰的賠償の適用に関する最高人民法院の解釈』(法釈[2021]4号文、以下『懲罰的賠償解釈』という)を公布し、翌日より施行している。『懲罰的賠償解釈』の目玉は以下の通りである。

1、懲罰的賠償の請求時期

原告は提訴時に懲罰的賠償を請求することができ、第一審の法廷弁論終了前に懲罰的賠償の請求を追加することができる。第二審において懲罰的賠償の請求を追加した後、裁判による調停が成立しない場合は、懲罰的賠償請求の追加について別途訴訟を提起するものとする。

2、懲罰的賠償の適用条件:故意による権利侵害+深刻な情状

「故意」を認定するときに、知的財産権の種類、権利の状態、関連製品の知名度、被告と原告又は利害関係人との関係などの要素を総合的に考慮しなければならない。『懲罰的賠償解釈』によると、以下のいずれかの状況に該当する場合は、「故意」になる。(1)被告が原告又は利害関係人の通知、警告を受けた後もなお権利侵害行為を行う場合。(2)被告又はその法定代表者、管理者が原告又は利害関係人の法定代表者、管理者、実質支配者である場合。(3)被告と原告又は利害関係人の間に労働、役務、業務提携、許諾、取次販売、代理、代表等の関係があり、かつ侵害された知的財産権に接触したことがある場合。(4)被告と原告又は利害関係人の間に業務やり取り或いは契約のために協議したことがあり、かつ侵害された知的財産権に接触したことがある場合。(5)被告が海賊版を作成し、登録商標を偽る場合。

「深刻な情状」を認定するときに、主に権利侵害の手段、回数、権利侵害行為の継続期間、地域範囲、規模、結果、権利侵害者の訴訟における行為などの要素を総合的に考慮しなければならない。『懲罰的賠償解釈』によると、以下のいずれかの状況に該当する場合は、「深刻な情状」に当たる。(1)行政処罰又は裁判で責任を負った後に、同一もしくは類似の侵害行為を再度実施する場合。(2)知的財産権侵害を業とする場合。(3)権利侵害証拠を偽造、毀損又は隠匿する場合。(4)保全裁定の履行を拒否する場合。(5)権利侵害による利益獲得、又は権利者が被った損害が巨額の場合。(6)権利侵害行為が国家の安全、公共の利益或いは人身の健康に危害を及ぼす可能性がある場合。

3、懲罰的賠償の算定基数及び倍数

懲罰的賠償の算定基数を確定する方法は基本的に『商標法』などの専門法律と一致する。つまり、原告の損失額、被告が権利侵害により得た利益、許諾使用料の倍数の何れかになる。又、原告が算定基数をある程度立証したが、被告が正当な理由なしに帳簿・書類の提供を拒否し、又は虚偽の帳簿・書類を提供した場合、裁判所は原告の主張を参考して算定基数を確定することができる。

但し、倍数について、『懲罰的賠償解釈』では、「同一の権利侵害行為により行政過料又は刑事罰金に処され、かつ執行後、被告が懲罰的賠償责任の減免を請求する場合は、裁判所はそれを認めないが、倍数を確定するときに総合的に考慮することができる。」と新たな規則を明確にした。