『営業秘密侵害の民事案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の規定』が2020年9月12日より施行

2020年9月10日、最高人民法院は『営業秘密侵害の民事案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の規定』(以下『規定』という)を公布し、『不正当競争民事案件の審理における法律応用の若干問題に関する最高人民法院の解釈』(以下『2007年司法解釈』という)における営業秘密の関連規定に取って代わった。『2007年司法解釈』と比べ、『規定』はより全面的であり、『反不正当競争法』(2019年改正)における関連規定を明確化・具体化されており、実行性も高い。以下は『規定』のポイントを説明する。

1、営業秘密の保護客体

技術情報において、『規定』では、「アルゴリズム」、「データ」などを含む新興分野に係る情報を保護客体の範囲に入れた。

経営情報において、『規定』では、「発想」を保護客体の範囲に含め、「顧客名簿」を「顧客情報」に修正し、それぞれの定義及び認定規則に対して新たな規定を行った。

(1)『2007年司法解釈』では、「顧客名簿は、公知の情報と区別できる特殊な顧客情報、複数の顧客を集めた顧客名簿、長期的で安定な取引関係を保つ特定顧客を含む」ことを定めていた。 『規定』では、上述の内容を削除し、「顧客情報」を「顧客の名称、住所、連絡先及び商慣習、意向、内容などを含む」と定義し、幾ばくか、「顧客情報」の認定基準を下げた。

(2)『規定』第2条では、「当事者が、特定の顧客との長期に亘る安定な取引関係だけを理由に、特定の顧客情報を営業秘密であると主張した場合は、人民法院に認められない」ことを定め、「特定の顧客が営業秘密に該当するか否か」の認定に制限を加え、依然として特定の顧客が営業秘密の各構成要件に合致することを証明する必要がある。

2、「公衆に知られていない」の判断基準について、『2007年司法解釈』第17条では具体的な要素を例示し、『規定』では以下の3点に修正した。

(1)時点:侵害被疑行為の発生時点をもって、「公衆に知られていない」に該当するか否かを判断する。

(2)対象:「公衆」とは、所属分野の関係者を指す。

(3)「知られている」程度:普遍的に知られて、かつ簡単に獲得できる。

3、秘密保持措置の判断基準

(1)時点:秘密保持措置が認められる前提は、侵害被疑行為の発生前に当該秘密保持措置が講じられていたこと。

(2)権利者が相応の秘密保持措置を講じたか否かを判断する要素には、「営業秘密及びその媒体の性質」、「営業秘密の商業的価値」、「営業秘密の識別度」、「秘密保持措置と営業秘密との整合度」、「権利者の秘密保持の意志」が含まれる。規模が比較的大きい、又は技術力が高い企業は、「営業秘密の商業的価値」と「秘密保持措置と営業秘密との整合度」、即ち講じた秘密保持措置と商業的価値が合致しているか否かに特に注意を払うべきである。

4、権利侵害行為の考慮要素

営業秘密侵害行為の認定は、「接触+実質的に同一のもの」という原則に従う。「接触」とは、「権利者の営業秘密を獲得するルート又は機会を有するか否か」を指す。『規定』では、「(1)役職、職責、権限。(2)本業である仕事又は職場から割り振られた任務。(3)営業秘密に係る生産経営活動に関与する具体的な状況。(4)営業秘密及びその媒体を保管、使用、保存、複製、制御し、又はその他の方式により接触、獲得が可能であるか否か。」と言う主要な判断要素を明確にした。「実質的に同一のもの」について、『規定』第13条では、「侵害被疑情報と営業秘密の相違・類似の度合い」など5つの判断要素を例示した。

5、秘密保持義務の拡大

『規定』第10条によると、契約に秘密保持義務の取り決めはないものの、信義誠実の原則及び契約の性質、目的、締約過程、取引習慣等に基づいて、被疑侵害者がその獲得した情報が権利者の営業秘密であることを知っている又は知るはずである場合には、人民法院は、被疑侵害者がその獲得した営業秘密に対して秘密保持義務を負うと認定する。つまり、法定の秘密保持義務及び約定された秘密保持義務を除き、信義誠実の原則、取引習慣などに基づいて秘密義務が発生する可能性もある。今後の司法実務の判断基準及び動向に特に関心を払う必要がある。

又、『規定』では、損害賠償の考慮要素、民事責任、民事事件と刑事事件との交錯などが明確にされた。