輸出用OEM商品への商標使用と商標権侵害の認定に係る新動向

株式会社B社は専門的なオートバイなどを生産する大手多国籍企業である。1998年に中国の第12類商標において、複数の「HONDA」の英文及び図形商標を出願した。海外M社は「HONDAKIT」(注:HONDAを目立つように拡大し、KITを縮小している)というラベルをつけたオートバイの完成品・部品の生産及びシャンマーへの輸出をH社に委託した。B社が上述の商標について税関にて知的財産権保護の届出を行ったところ、関連製品を税関に差し押さえられた。B社は登録商標専用権侵害を理由に訴訟を提起し、「H社が権利侵害を停止すること、そして、300万元の損失を賠償すること」を請求した。

第一審、第二審、再審を受けた上で、2019年9月、最終的に最高裁判所は「H社の渉外的なOEM行為は商標権侵害に該当する」と認定した((2019)最高法民再138号判決)。

長期に亘って、輸出用OEM商品における商標の使用及び商標権侵害の認定において、中国の司法機関の主流の観点は、「輸出用OEM商品は中国市場に進出せず、メーカーがラベルを貼っていても、商品の出所を提示おらず、また中国国内で販売を行っていない場合、商品の出所を識別することはできないので、中国国内で混淆を引き起こす可能性はない。従って、商標権侵害にならない。」というものである(典型的な案例は、(2018)滬0115民初37682号―彪馬欧州公司が商標権侵害を主張して敗訴した)。本件の「HONDA」案件について、第一審裁判所も第二審裁判所も同じ観点を持っている。(付注:第一審裁判所は、「現有の証拠は、H社の加工行為がM社の授権を得たと認定するには不十分である。従って、H社の加工行為は渉外的なOEMに該当せず、販売行為に該当する。H社は商標権侵害になる。」と認定した。)

しかし、「HONDA」案件の再審判決の観点は上述の主流の観点とは大きな差があり、判決の分岐点となる。最高裁判所は「HONDA」案件により、以下の通り渉外的なOEMの新規則を確立した。1、商品の出所を識別できる限り、商標法における商標の使用に該当する。最高裁判所は、「商標の使用行為は……通常、物理的な貼り付け、市場流通などを含めて複数のプロセスがある。商標法における商標の使用に該当するか否かは、商標法に従い全体的に解釈を整合すべきであり、一つの行為を個別に捉え、それぞれのプロセスにのみ注目すべきではない……。生産・加工した製品において、表示又はその他の方式により商標を使用した場合は、商品の出所を識別できる限り、商標法における商標の使用に該当すると認定すべきである。」と指摘した。2、「関連公衆」の範囲を商品運送などのプロセスの事業者まで拡大する。『商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈』第8条でいう「関連公衆」について、最高裁判所は、「権利侵害を訴えられた商品の消費者以外に、権利侵害を訴えられた商品の販売と密接な関係がある事業者をも含む(例えば、商品運送などのプロセスの事業者)。又、EC及びインターネットの発展に伴い、国外に輸出した商品は国内市場に還流する可能性があるので、国内消費者はOEM商品に対して接触・混淆する可能性もある。」と指摘した。3、一律に貿易パタ➖ンにより商標権侵害に該当するか否かを認定しないようにする。最高裁判所は、「特定の貿易パタ➖ン(本件の渉外的なOEM)を商標権侵害にならない除外状況に直接認定してはならない。さもなければ、商標権侵害を判断する基本規則に背く。」と判断した。

「HONDA」案件の再審判決後の類似案件及び裁判結果を検索したところ、江蘇((2020)蘇民終54号)、河南( (2019)豫01知民終31号)、浙江((2019)浙03民終721号、(2018)浙02行初91号)、遼寧( (2020) 遼02民終538号)等、各地の裁判所は基本的に最高裁判所が確立した上述の新規則、新構想に準じている。従って、この問題における司法機関の観点は新しい観点が主流となってきているしている。今後、類似案件については、一般的に、新観点に従い処理される見込みである。

渉外的なOEMに従事する企業は、当該司法上の新動向を重要視するべきである。リスク防止のために、企業は外国委託者の合法的な授権(委託者が中国国外に商標権を持っている)を取得するとともに、中国国内に商標権を持っているか否か、又は他人の商標権を侵害したか否かを審査する必要がある。さもなければ、提訴され、権利侵害になるリスクに直面する。提訴された場合は、ケースバイケースで、如何にして新規則の1と3により突破口を開くかを考慮するべきである。