技術秘密侵害事件における権利侵害者の「合理的利益」の認定

『不正競争防止法』第17条では、営業秘密侵害事件に係る損害賠償金を確定するときに、被害者の実損を計算できない場合は、侵害者が権利侵害により獲得した利益を基準として計算することとしている。実務において、殆どの営業秘密侵害事件において、被害者の損害を証明することが難しいため、侵害者の利益に基づいて計算するケースは珍しくない。

侵害による侵害者の利益の計算方法については、『不正競争民事案件の審理における法律適用の若干問題に関する最高人民法院の解釈』(法釈[2007]2号)第17条によると、特許権侵害に係る損害賠償額の計算方法を参考にすることができる。具体的に言えば、『特許紛争案件の審理における法律適用問題に関する最高人民法院の若干規定』第20条により、「侵害品の市場販売総数に侵害品の合理的な利益を乗じて得た金額」に基づいて計算する。但し、如何にして「合理的な利益」を認定するかについての明確な規定やガイドラインなどはない。

「合理的な利益」の確定には、二つの要素がかかわり、その一つは、販売価格、もう一つは利益率である。

一般的には、侵害者の利益を計算するときに、侵害者の販売価格及び利益率を基準とするのは当然だと考えられる。実務において、殆どの事件では当該計算方法が適用されている。当事者(侵害者又は被害者)が侵害者の販売価格を証明するために提出した証拠について、裁判所は、その判断に当たって、以下の傾向が示している。

(1)認められる可能性が低い証拠:侵害者から提供された、自ら作成した販売計算表[1]、財務諸表[2]

(2)認められる可能性が高い証拠:相応の資格を有する第三者から発行された侵害者の年度財務監査報告書[3]、侵害者の入札文書に明記されている販売価格[4]、侵害者の公式ウェブサイトに掲載された販売価格又は利益状況(場合によって、財務監査を行うことも有り得る)。

しかし、下記の場合、侵害者の販売価格をベースとして計算するのは、その公平性又は合理性に欠ける。①侵害者が低価格で市場シェアを奪い、被害者との販売価格の差が大きいため、被害者の販売価格に基づいて計算された結果との差異が甚だしい。②侵害者の廉売行為が被害者の市場に影響(価格下落、市場シェア縮小など)を与え、損害が大きい場合。

その場合、被害者は往々に自分の販売価格を計算基準とすることを主張する。しかし、殆どの紛争事件において、2社しかない複占市場ではなく、複数のライバルが存在するため、被害者の主張が、必ずしも認められるとは限らない。策略を変えて、同業他社の同種製品の取引単価[5] 又は業界協会の刊行物に掲載される報告書の関連データなど比較的に客観的な証拠が、裁判所に認められやすいと思われる。

また、一部の紛争事件において、侵害者がその販売価格などに関する情報の提供を拒否した場合、その他の事実と結び合わせて、裁判所は、侵害者に悪意があると認定する可能性が比較的高くなる。被害者の販売価格を計算基準とするか[6]、又は侵害者の悪意、技術秘密侵害の及ぶ範囲や影響、係る製品を分解して単独で販売できるか否か、継続期間、販売状況、コスト、業界の平均利益状況などの要素に至り、総合的に考慮して認定することになる。

利潤率については、被害者の利益率を基準に計算するか、又は侵害者の利益率を基準に計算するか、若しくは他の基準により計算するかは、往々に各事件の争点の一つとなる。一般的に、侵害者の販売価格を基準として採用しない場合は、裁判所はいずれか一方が主張する利益率を認めず、双方の主張、業界市場の状況及び他の要素(例えば、研究開発コスト、取引先開拓コスト[7])を斟酌して利益率を決める。

なお、侵害者の利益を計算するときに、2つの「武器」を重要視する必要がある。その一つは、関連司法解釈によると、「侵害者の権利侵害による利益は通常権利侵害者の営業利益をベースとして計算する。完全に権利侵害を業とする侵害者の場合、権利侵害による利益は販売利益をベースとして計算してよい」。もう一つは、権利侵害の対象となる技術の寄与率、即ち侵害対象となる技術が製品に占める割合である。数多くの事件において、当該「武器」は当事者に無視され、裁判所にも判断の要素とされていない。被告にとっては、これら点は、うまく利用すべきところである。

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[1](2019)粤知民終86号
[2](2016)魯民終1364号
[3](2010)蘇知民終字第0179号、(2016)滬民終470号
[4](2016) 魯民終1364号
[5](2019)粤知民終86号
[6](2016)粤民終770号
[7](2016)魯民終1364号