二重起訴の認定基準

曹さんは不動産売買契約紛争によりX社を訴え、X社に係争不動産の所有権登記手続の協力をすることを請求した。調停により双方は合意し、「X社が調停調書発効後3日以内に曹さんに協力し、係争不動産の所有権登記手続を行う」などを約定し、第一審裁判所は「民事調停書」を下した。X社は契約無効を理由に再審を申し立て、証拠を提出したが北京市第一中級人民法院に却下された。その後、X社は不動産売買契約紛争として訴訟を提起し、係る不動産売買契約の取消を請求した。第一審はそれを二重訴訟と認定し、判決却下を下し、第二審は原判決を維持した。

二重訴訟については、『〈中華人民共和国民事訴訟法〉の適用に関する最高人民法院の解釈』(以下『民事訴訟法司法解釈』という)では、審級によって相応の規定を定めている。

まずは、第一審において訴えを取り下げ、又は判決発効後に再度訴えを起こすことについて、『民事訴訟法司法解釈』第247条によると、下記の条件を同時に満たす場合は、二重訴訟に該当する。(1)後訴と前訴の当事者が同じである。(2)後訴と前訴の訴訟の目的が同じである。(3)後訴と前訴の請求が同じであり、又は後訴の請求が実質的に前訴の裁判結果を否定する。文頭の事件において、同一の当事者は同一の不動産について紛争を起こし、又、係争中の契約の取消請求は、『民事調停書』の基礎又は『民事調停書』の主文に対する実質的な否定であるため、二重訴訟と認定された。

上記3つの条件の判断については、個別案件の状況毎に、相当難しくなる場合もよくある。司法実務において、以下の判断基準が比較的明確である。

第一に、当事者が同じであるとは、訴訟において当事者が互いの立場が変わった後、一方の人数は変わらず、相手の人数に増減がある場合も、双方の民事関係は変わらないということを指す(出所:(2017)最高法民申2064号判決)。

第二に、訴訟の目的が同じであるとは、主に二つの訴訟の法律関係、基礎となる事実の審理範囲が同じであることを指す(出所:(2018)滬01民終3304号判決)。

第三に、請求が実質的に前訴の裁判結果を否定するか否かについては、請求の根拠及び請求権の基礎に基づいて判断する。例えば、上海市第一中級人民法院は(2019) 滬01民終684号判決において、「第一審では、差額分の代金支払請求を棄却した。第二審では、相手の契約違反により契約が履行できないので、相手に賠償責任を負うことを請求した。第二審の当該請求は前訴の裁判結果を否定するとは認定されない。」と指摘した。

次に、第二審において、他の当事者から同意を得て、原審の原告が訴えを取り下げた後に、再度訴訟を提起する場合は、『民事訴訟法司法解釈』第338条により人民法院は受理しない。その理由は、第一審において裁判所が審理の上判決を下しているので、当事者が同一の事実、請求、対象をもって再度訴訟を提起することを許可すれば、「一事不再理」、即ち同一事件について再度、訴訟を提起することを許さないという原則に違反することになり、法的権威を害するからである。

注意すべきことは、二重訴訟の例外がある。『民事訴訟法司法解釈』第248条によると、判決発効後に、新たな事実が発生し、当事者が再度訴訟を提起する場合は、人民法院は法に従い受理する。その理由は、「確定判決は、特定の時点で当事者間の実際の法律関係の状態を判断したもので、基準時点以前の事実に対してのみ既判力があり、基準時点以降の事実に対して既判力がない。基準時点以降に発生した新たな事実は、既判力による拘束を受けず、当事者は再度訴訟を提起することができる。」からである(出所: 北京市高級人民法院(2019)京民終276号)。従って、「新たな事実」とは、確定判決の効力が生じた後に発生した事実を指し、元の有効な判決により明らかにされていない事実又は未言及の事実ではなく、当事者が原審において提出しなかった事実でもない。