在職中に取得した資格証書は、退職時に会社に返す必要があるのか?
瀋さんはS社に勤め、在職期間内に「ISO9000品質体系主任審査員」及び「主任審査員」の証書を取得した。研修費用はS社が負担し、証書もS社が保管している。瀋さんは退職時に、S社に証書の返却を要求したが拒否されたため、労働仲裁を提起した。第一審、第二審を経て、最終的に裁判所は「S社が証書を瀋さんに返却せよ」という判決を下した。しかし、S社は証書を押えていることを否認したため、判決が執行不能になった。瀋さんは再度S社を訴え、3万元の損害賠償を主張し、結局裁判所は3000元の損害賠償額を認めた。
使用者の立場に立って考えれば、使用者が従業員の職業資格証書を取得するのに必要な費用を負担したので、関連証書も使用者が所有する「財産」に該当し、従業員が返却を要求する権利はない。さもなければ、使用者が損をすることになる。
しかし、上記の考え方は妥当性に欠けている。根本的に職業資格証書の人的属性及び『労働契約法』における研修教育費用及び服務期間の関連規定を無視しているからである。
各種の資格証書(例えば、電気工証書、会計士免許など)の授与対象者は個人であるため、通常、資格証書には従業員の氏名が明記されている。仮に一部の資格証書で使用者の名称が同時に明記されている場合も、従業員が当該使用者の下で勤めた期間内に資格証書を取得した意味を示すだけで、資格証書の帰属と無関係である。
又、立場を変えて考えれば、使用者の出資により従業員が受講し、技能向上の機会は与えられるが、技能を身に付けることはあくまでも従業員自身の努力であり、研修目的を達成できるか否かは従業員自身の努力によって決められ、使用者が費用を負担しさえすれば研修目的を達成できるわけではない。従って、職業資格証書は強い人的属性を有し、従業員個人の所有に属すべきであると思われる。実は、使用者は退職者の職業資格証書を押えている場合も役に立たない。前任者の職業資格証書は直接に後任者に通用できず、後任者は規定通りに取得する必要があるからである。
当然、公平性から見て、使用者の費用負担を無視するべきではない。『労働契約法』第22条には、「使用者は、労働者のために研修費用を提供し、専門的な技術研修を行う場合には、当該労働者との間で協議書を締結し、服務期間を約定することができる。労働者が服務期間の約定に違反した場合、約定により使用者に違約金を支払わなければならない。違約金の金額は、使用者が提供する研修費用を超えてはならない。使用者が労働者に支払いを要求する違約金は、服務期間の未履行部分に割り当てられるべき研修費用を超えてはならない。」と規定している。『労働契約法実施条例』の関連規定によると、研修費用は、「使用者が労働者に専門技術の養成?訓練を行う為に支払った、証憑のある養成?訓練費用、養成?訓練期間の出張旅費及び養成?訓練により生ずるその他の直接費用が含まれる」。従って、使用者が費用を負担して従業員に専門的な研修を実施し、上記の規定通りに服務期間及び違約金などについて書面で約定を行っている状況で、従業員が信義に背き退職するときは、使用者は当該就業員に対し相応の研修費用の返却を主張することができる。
以上のことから、使用者が退職者の証書を押さえることは明らかにむだ骨を折るだけでなく、薮蛇になる。研修管理の立場にたって、使用者は従業員との研修協議書の締結を重視し、協議書や費用支出証憑などを保管すべきである。そうすると、従業員が約定に違反した場合、使用者は自分の合法的な権利を守ることができるようになる。