採用通知書発送後、企業は翻意できるか?
A社は電子メールにより李さんに対し、職務や賃金や入社日などを記載した採用通知書を発送し、李さんはそれに対して「入社に同意する」と返信し、元の勤務先に退職届けを提出した。しかし、数日後、A社は翻意し、「不採用」の旨を李さんに通知したため、双方間に紛争が起きた。
では、採用通知書を発送後、使用者は翻意することができるか?
まずは、双方間にどのような関係が構築されたか、即ち労働関係が形成されたか否かを検討する必要がある。『労働契約法』第7条には、「使用者は労働者と業務開始の日から労働関係を確立する。……」と規定し、第10条には、「労働関係を確立するに当たっては、書面で労働契約を締結しなければならない。……使用者と労働者が業務開始の前に労働契約を締結した場合は、労働関係は業務開始の日から確立する。」と規定している。前記の規定からみて、文頭の事案においても、業務開始日前に労働関係は確立されていないので、労働法の関連規定は適用しない。従って、本件の紛争は労働紛争に該当せず、『契約法』の関連規定が適用されるべきである。
『契約法』第13条の規定によると、採用通知書は契約の申込みに該当し、労働者の返事は承諾に該当する。又、『労働契約法』第17条の規定によると、労働契約は法定の要式契約であるため、本件の李さんはA社と書面で労働契約を締結しておらず、A社と事実上の労働関係が形成されていないため、上記の通説により双方間に契約関係は成立していない。A社の行為は信用誠実に背くため、『契約法』第42条の規定に基づき、A社は李さんの損失について契約締結上の過失責任を負うべきである。司法実務において、通常、関連損失は労働者の元の勤務先における賃金及び失業期間をベースに計算することとなる。
採用通知書が李さんに送達される前に、それを撤回する場合、A社は責任を負わなくてもよいのか?『契約法』第17条の規定によると、原則として契約申込みは撤回することができるため、A社はいかなる責任を負う必要もない。例えば、A社が撤回通知書を翌日配達にて郵送し、採用通知書を当日配達にて郵送し、李さんが先に撤回通知書を受け取った、又は2つの通知書を同時に受け取った場合、A社の撤回は有効である。但し、A社が採用通知書において返答期日を明記したり、他の形式で契約申込みの取消不可を明言していた場合、採用通知書を撤回することはできない。
実務において、リスクを低減するために、企業は採用意向確認書により労働者に契約申込みの誘引を発送することが考えられる。『契約法』第15条の規定によると、契約申込みの誘引は他人に契約申込みを出してもらいたいという意思表示であり、即ち、意向を表すだけで、契約締結の成否は一定の不確実性が存在する。一方、契約申込みが「具体的で確定的な内容」で、それが相手方の承諾を受けた場合、契約申込み者は契約申込みの相手方の意思表示による拘束を受ける。よって、「貴方は当社の面接に合格した。XX月XX日までに来社し、採用について相談するようにしてください。」とういうような表現は明らかに契約申込みの誘引に該当する。採用通知書に採用後の待遇を明記するとともに、「本通知書は当社の採用意向を表すだけで、承諾とみなさない。貴方の辞職などによる損害に対して当社は責任を負わない。」というような表現は、契約申込み又は契約申込みの誘引のどちらに該当するかについて観点にバラつきがあるが、企業が労働者の全ての損害を賠償するというリスクの低減又は回避に役立つ可能性があると思われる。