契約書なしで取引を行い紛争が生じた場合の対処策
商業活動において、時間不足、又は当事者の一方が取引機会の獲得を急ぐなどにより、取引当事者が契約なしで取引を行うケースは珍しくない。双方が取引条件について合意に達せず、又は一方の当事者が履行した後、相手方が代金支払を拒否したなどの理由で、紛争を起こした場合、当事者は後悔しながら、途方に暮れてしまうことも多い。
実は、契約なしで取引を開始した場合は、事実上の契約に該当する。その主な法的根拠は、『契約法の適用に係る若干問題に関する最高裁判所の解釈(二)』第2条であり、即ち、「当事者が書面又は口頭にて契約を締結していないが、当事者双方の民事行為により、双方が契約を締結する意思があると推定できる場合、人民法院は契約法第10条第1項の「その他の形式」で契約を締結したと認定できる。但し、法律に別途規定がある場合を除く。」
よって、当事者が言葉又は文字で意思表示をしなかったとしても、実際の履行行為が存在し、かつ相手方に認められれば、契約関係は成り立つ。
キーポイントとなるのは、書面で契約を締結していない状況下で、紛争が起きたときに、当事者は、実際に履行したこと及び相手方が同意していたなどの事実を如何に証明するかにある。
『売買契約紛争案件の審理に係る法律問題に関する最高裁判所の解釈』第1条によると、当事者間に書面による契約がない場合、一方の当事者が送り状、受取状、決済書又はインボイスなどにより売買契約関係の存在を主張する場合、人民法院は当事者間の取引方式、取引慣行及び他の関連証拠を併せ考慮し、売買契約が成立するか否かについて判断する。
司法実務において、上述した証拠の有無及び証明力について、裁判所は逐一審査する。特定の取引が備えるべき証拠が不揃いで、取引の発生と内容を証明できない、又は証拠に矛盾がある場合、裁判所に認められない。例えば、[2011]民申字第170号伊藤忠商事株式会社と中電通信科技有限責任会社との売買契約紛争事件において、最高人民法院は、「伊藤忠商事株式会社と中電通信科技有限責任会社は華科会社を仕入プラットフォームとして、電子メールでのやり取りで注文や支払などを行った。五つの注文の内、一部が履行済みで、双方は実際の履行により契約関係を形成した。」と認めた。しかし、伊藤忠商事株式会社は契約履行において注文ごとに納品管理をきちんとしておらず、納品した貨物に相応する注文、納品日、代金、履行状況を証明できなかったため、最終的に敗訴となった。
以上のことから、企業は契約の締結と履行において、下記の2点に注意すべきである。書面での契約の締結を重視し、できれば履行前に契約を締結しておくこと。取引過程における各段階の証拠を保管し、必要な証拠がない場合、紛争の発生前に妥当な方法により証拠不足という「抜け穴」をふさぐこと。