管轄権異議申立てに係るリスクと合理的な活用

    A社とB社は売買契約を締結し、紛争が生じた場合は、B社所在地の裁判所による管轄を受けることなどを明確に約定していた。その後、双方は貨物代金について紛争を起こし、B社はその所在地の裁判所に訴訟を提起した。A社は直ちに、契約履行地がA社の所在地であることを理由に管轄異議の申立てを行った。一審裁判所で棄却され、、その後もA社は管轄異議の申立てに対して控訴を行った。B社は、A社が重要な資産を移転と噂を耳にしたため、いらいら焦るばかりで、どうしようもない。

    本件のようなケースはほとんど毎日発生しているといっても過言ではない。

    『民事訴訟法』第127条には、「人民法院が案件を受理した後、当事者は管轄権に対し異議がある場合には、期間内に答弁書を提出し、異議申立てを行なければならない。…… 当事者が管轄異議申立てを行わずに応訴答弁をした場合には、訴訟を受理した人民法院が管轄権を持つと看做される。但し、級別管轄と専属管轄の規定に違反する場合を除く」と管轄権異議申立て制度を定めている。当該制度は、裁判所管轄の間違いを是正し、地方保護主義を抑制するための大きな役割を果たしているが、管轄異議の申立てに対して制限が設けられていないため、被告が延々と訴訟を伸ばしたり、資産を移転したりするための手段として濫用されることが多い。

    ある地方の裁判所の統計結果によると、管轄権異議申立ての請求が認められた割合は2%に過ぎず、大部分の管轄権異議申立ての事由は成立しない。それにもかかわらず、大部分の被告は依然として管轄権異議申立ての裁定について控訴を行う。管轄権異議申立てが勝手気ままに利用ないし濫用されることは幅広く存在する深刻な問題となっている。

    近年では、個別案件において裁判官が管轄権異議申立てを濫用した当事者に対して過料に処分を下すなどの懲戒を行ったとの報道を時々耳にする。例えば、2017年、ある不動産会社は不動産紛争専属管轄に係る規定を無視し、法定期限の最終日に管轄権異議申立てを行い、裁判所に棄却された後もなお、数十件の訴訟案件について同様の管轄権異議申立てを行った。臨沂市の某裁判所は、「当該不動産会社が民事訴訟における信義誠実の原則に背き、司法資源を著しく浪費し、司法活動を妨げたため、訴権の濫用に該当する。」と判断し、10万元の過料に処した。

    従って、被告が信義誠実の原則に背き、又は明らかに常識(特に弁護士に委託した場合に)に反して管轄権異議申立てを行った場合は、原告は裁判所に関連する主張を提出することが考えられる。仮に被告が最終的に制裁を受けないとしても、裁判官にマイナスの印象を与えることになり、通常では事件の審理及び証拠の認定などに一定の影響を及ぼす。

    被告としては、合理的な理由があり、かつ必要がある場合は、管轄権異議申立てを行うことができる。この場合は、以下のポイントに注意すべきである。

    1、時間的に、特許無効審判請求手続きや証拠収集などに手間がかかる知的財産権侵害案件の特殊な状況を除き、先延ばしにし、期限最終日になってはじめて管轄権異議申立てを行うことを避けるべきである。

    2、管轄権異議申立ての理由については、法律では特別な制限がないが、合理的かつ十分な理由を有した上で、信義に従い誠実に管轄権異議申立てを行うことが大事である。例えば、経常居住地と住所地が一致しない、また係る事案の性質によっては、専属管轄が適用されるべきであるなどの理由は、合理的であると思われる。常識に反していたり又はねつ造などは、却って事案の審理に不利となる可能性がある。