見落としがちな紛争解決条項
南京にある甲社とハルピンにある乙社は売買契約を締結し、「本契約による紛争は江蘇省仲裁機関により解決される」ことを約定した。乙社が甲社に貨物代金の支払を滞らせたため、甲社は南京仲裁委員会に仲裁を講じた。しかし、残念ながら、南京仲裁委員会から「当該仲裁条項は無効である」と告知され、甲社はやむを得ず、乙社所在地の裁判所に訴訟を提起した。
本件のようなケースは珍しくない。多くの企業(特に販売担当者)は、納期、価格、支払条件など「重要な条項」以外の条項が「大したことではない」と認識している。実は、紛争が生じた場合、紛争解決条項が自らに不利であれば、多大な手間やコストがかかることになる。よって、紛争解決条項を合法的かつ合理的に約定しておくことは、とても重要なポイントである。
実務において、紛争解決条項における問題点は主に以下の通りである。
1、仲裁により紛争を解決する旨を約定したが、仲裁機関を明確にせず、又は名称が正確ではない。この場合、『仲裁法』によると、係る約定は無効となる。文頭の実例は、その適例である。
2、「仲裁又は訴訟を提起する」ことを約定した。例えば、「……協議しても解決できない場合、いずれか一方の当事者は仲裁又は訴訟を提起することができる」。中国の法律によると、仲裁又は訴訟は、その内一つしか選択できない。従って、上記の場合、仲裁を約定していないことと見なされる。
3、複数の契約?協議書における訴訟?仲裁に係る約定が一致していない。長期的な売買契約又は複雑なプロジェクト工事契約について、双方当事者は通常、複数の関連契約/協議書などを締結する。それらの関連契約/協議書における紛争解決条項の約定が一致せず、かつ仲裁又は訴訟のどちらを優先するかを約定していない場合、意見の食い違いや、管轄の不確実性を引き起こす。
4、二つ以上の裁判所による管轄を受けることを約定した。『<中華人民共和国民事訴訟法>適用の若干問題に関する意見』第24条の規定によると、契約の双方当事者が管轄の選択について明確に約定せず、又は民事訴訟法第25条に定められる人民法院から複数の人民法院による管轄を選択した場合、管轄の選択についての約定は無効となる。従って、法律では「協議の上管轄を選択する」を定めていても、双方当事者が約定した裁判所は唯一でなければならない。例えば、「甲が契約違反となる場合、乙は乙又はプロジェクト所在地の裁判所による管轄を選択することができる。乙が契約違反となる場合、甲は甲所在地の裁判所による管轄を選択することができる。」という約定は、不明確により無効と認定された(最高裁判所(2014)民提字第231号民事裁定書を参照)。又、『当事者双方が紛争が生じたときに各自の所在地の人民法院に提訴できることを協議の上約定した場合に、管轄をいかに確定するかに関する最高人民法院による回答』では、「紛争が生じたときに、双方当事者が各自の所在地の人民法院に提訴できるという約定は、原告住所地の人民法院による管轄を受けると見なされる」と指摘している。
企業は紛争解決条項の重要性を認識し、上述の問題を避けるとともに、状況に応じて、できる限り自らに有利な約定を結ぶべきである。
第一に、仲裁を慎重に選択する。仲裁を選択する場合は、権威のある仲裁機関を約定すべきである。一般的に言えば、それらの仲裁機関の実務経験が豊富で、比較的に公平性も高いからである。又、知的財産権や先端分野に係る紛争について、費用や専門性及び二審、再審の提起可能性を総合的に考慮した結果、裁判所による管轄を選択したほうがよい良いと思われる。
第二に、契約を締結するときに比較的有利な地位にある場合、できる限り管轄地を自らの所在地にすることを約定すべきである。そうすると、手間が省け、相手側に提訴される可能性も比較的に下げられる。
第三に、契約を締結するときに双方の地位が匹敵する場合、契約における各当事者の義務の複雑さ、違約行為の判断難易度、提訴される可能性などを総合的に考慮した上で、自らに有利な選択をするべきである。