土地使用権の取得に係るリスクと防止
A社は企業誘致活動に参加するときに、B郷政府から「土地価格、税収支援などの面において優遇政策を講じる」と熱心に誘われ、A社はすぐに、B郷政府と500畝の土地使用権の取得について合意し契約を締結し、A社はその代金を支払った。しかし、当該土地は農村集団所有土地に該当し、かつ復元の対象となる土地であったため、A社は、建設用地計画許可証及び国有土地使用権証を取得できなかったため、やむを得ずB郷政府に対し解約及び代金の返還を要求したが、B郷政府は取り合わなかった。最終的に、A社は裁判所に訴えを提起した。
実務において、これに類似するケースは珍しくない。
中国の土地所有権の帰属及び取得方法等は、多様かつ複雑である。企業は土地使用権を譲受又は賃貸借により取得する場合(注:中国では土地所有権は譲渡不可ため、使用権のみを取得できる)、リスクを防止するために、事前に十分な確認を行う必要がある。
全体的に言えば、企業は以下の事項について留意すべきである。
第一に、土地の種類及び権利帰属。中国の土地は国有地と集団所有地の2種類に分けられる。国有土地使用権の取得に関する規定は比較的明確である。関連する法律法令によると、土地使用権払下契約は市、県の人民政府土地管理部門との間に締結されるべきである。従って、A社のように、郷政府や企業誘致部門や開発区管理委員会等の主体と契約を締結した場合、『契約法』の規定により、関連契約は法律の強制規定に違反することになるため無効となる。一方、集団所有地は、大変複雑で、郷鎮又は村又は組農民集団所有地等複数の形態があり、かつ過去の様々な問題により一部の集団所有地については登記手続が行われず、権利証の取得がなされていなかったため、実務において集団所有地の権利帰属を確認することはなかなか困難である。又、関連法律法令によると、通常、集団土地使用権の譲渡、賃貸借等の必要がある場合には、国家による収用手続きを経て国有土地に転換し、その国有土地の土地使用権について払下げを受けることになる。唯一の例外として、郷鎮企業を設立する場合は、集団所有地を建設用地に直接転換することができる。但し、留意すべきことは、郷鎮企業の資本金構成(農村集団経済組織又は農民による出資が50%以上である)や、企業の管理者等について特定の条件を満たす必要がある。
第二に、取得対象となる土地に関する計画を確認すること。具体的に、所在エリアの全体計画、当該区画土地の計画などを含む。全体計画の動向から見れば数年後立ち退きを命じられる可能性がある場合、当該土地を取得するか否かを慎重に考慮すべきである。又は、農薬工場の旧跡や本件のような復元の対象となる土地など、特殊な土地において特定の事情による未解決問題があるか否かを事前調査する必要がある。
第三に、土地使用権の取得手続。関連法令によると、中国では国有土地使用権の払下げの方法は、(1)協議、(2)入札募集、(3)競売、(4)上場取引の四つである。『入札募集?競売?上場取引による国有建設用地使用権払下関連規定』第4条には、「工業、商業、観光、娯楽、商品住宅など事業用地及び一筆の土地に2つ以上の使用意向者が出る場合、入札募集、競売又は上場取引により払下げを行う。前項でいう工業用地は倉庫用地を含むが、採鉱用地を含まない。」と明確に記されている。当該規定から見て、実務において、入札募集、競売、上場取引は必要不可欠な手続きである。企業が地方政府の承諾を軽々しく信用し、入札募集、競売、上場取引の手続きを行わなかった場合、解決できない後腐れが発生する恐れがある。また、協議により土地使用権を譲り受ける場合、関連法令によると、最低価格は一定の制限を受ける(例えば、協議により合意した最低払下げ価格は新規建設用地の土地有償使用費、土地収用(立ち退き)補償費及び国の規定に従う納税額の合計金額を下回ってはない)。企業は目先の利益にはとらわれないように、前述のことに十分な注意を払うべきである。
第四に、関連協議書において、双方の権利?義務(代金支払、支払日、手続、企業優遇政策の具体的な内容及び計算方法、違約責任の負担等)を明確にすること。それは、約定が不明確である限り、リスクは現実の損害になる可能性があるからである。