被災従業員が規律違反により解雇された場合、使用者は一時傷害就業補助金を支給しなくてもよいのか?

    A社の従業員である陳さんは製造現場で機械を使用したときに、不注意で足の指を負傷し、労働災害と認定された。陳さんは、治療終了後、職場に復帰したが、その後、A社の規則制度に著しく違反したため、解雇された。そこで、陳さんはA社に対し、一時傷害就業補助金を支払うよう要求したが、A社は「陳さんは規律違反により解雇された」という理由で、一時傷害就業補助金の支払いを拒否した。この場合、A社は一時傷害就業補助金の支払いを拒否することができるのだろうか?

    『労災保険条例』第37条第(2)項には、「労働契約期間満了後、又は従業員本人が労働契約の解除を申し出た場合、労災保険基金により労災医療補助一時金が支払われ、使用者より一時傷害就業補助金が支払われる。」と規定しているが、実務においては、該条項の理解及び適用について、長きにわたり意見が一致していない。

    当該条項の文面から見れば、、使用者が、一時傷害就業補助金を支払う前提条件は以下の二つだけだ。労働契約期間を満了している。従業員が退職を申し出た。つまり、使用者が、法の基、労働契約を解除するという状態(本件において従業員が著しく規律に違反した)は、前述の二つの前提条件の何れにも該当しないため、使用者が一時傷害就業補助金を支払う必要はないと見られる。従って、実務においても、一部の労働仲裁機関及び裁判所は、使用者は一時傷害就業補助金を支払う必要がないと判断している。

    しかし、殆どの労働仲裁機関及び裁判所は、「従業員が著しい規律違反により解雇されたとしても、一時傷害就業補助金を取得すべきである。」と認識している。その理由は概ね以下の通りである。一時傷害就業補助金などの労災保険待遇は、従業員が業務により傷害を受けたときに獲得すべき救済と補償に該当し、法定事由がない場合に支給を停止してはならない。又、現行の『労災保険条例』第42の規定によると、被災従業員が労災保険給付を受ける条件を喪失したり、労働能力鑑定や治療を拒否した場合にのみ、労災保険給付は停止される。従って、使用者による労働契約の解除は、被災従業員への労災保険給付停止の状況に該当しない。尚、一部の判決では、被災従業員の著しい規律違反行為は、解雇処分により既に罰を受けたという観点を述べた。『社会保険法』第39条第3項には、「労働契約の終了又は解除時に、被災従業員が取得すべき一時傷害就業補助金は、国の規定に従い使用者が支払う。」と規定している。当該規定は、労働契約の終了又は解除を被災従業員が一時傷害就業補助金を取得する前提条件となっているが、労働契約解除の方法と理由を前述の前提条件としていない。『労災保険条例』第38条には、「被災従業員の労災が再発し、治療が必要だと認められた場合は、労災保険給付を受ける。」と規定している。労災は、労働関係の解除前又は解除後に再発する可能性があり、労災保険給付を受けるための前提は労災が再発し、かつ治療が必要であることである。従って、労災保険給付関係は労働関係の終了に伴い終了するわけではない。

    2015年、『2015年第11期最高人民法院公報』における「候宏軍が上海隆茂建築装潢有限公司を訴えた労働契約紛争事件」において、最高人民法院は、前述の理由とに基づき、「一時傷害就業補助金は、労働契約終了又は解除時に、被災従業員が取得すべきもので、かつ使用者が支払うべきものである。使用者は労働契約を解除した場合も、依然として被災従業員に対し一時傷害就業補助金を支払う義務がある。」と指摘した。

    それ以降、各地の裁判所でも、この問題について判決が統一されている傾向にある。