従業員は会社の処分に不服がある場合、労働仲裁に申立できるのか?
A社は内部監査を行ったところ、従業員の陳さんに重大な過失があり、かつ会社に深刻な損害を与えていたことに気づき、A社は、『就業規則』に基づいて陳さんに対し書面による警告を行い、又会社への損害賠償として2ヵ月の賃金控除を行った。陳さんは、労働争議仲裁委員会に対し仲裁を申立し、会社の処分が不当であり、2ヵ月の賃金を返還するよう主張した。
実務において、「累積加重処分」を定めている会社は少なくない。書面による警告が累計3回に達した場合、規則制度に著しく違反したと見なし、会社は一方的に労働契約を解除することができるというような規定はよく見られることだろう。それも原因の一つで、従業員は会社の処分に対し非常に敏感で、処分に不服として労働仲裁を申立するケースも珍しくない。
ところで、『労働争議調停仲裁法』第2条で列挙された5種の労働紛争には会社の処分を巡る紛争について明文化されていない。では、実務において、会社の処分を巡る紛争は労働仲裁機関又は裁判所の受理対象になるか?
会社が従業員に処分を下すことは、会社の自主的な経営権を行使する行為である。では、それに対して司法機関が干渉すべきなのだろうか?『労働争議案件の審理における若干問題に関する上海市高級人民法院民一廷の解答』の観点は参考にする価値があると思われる。当該解答では、以下の様に述べている。「使用者が労働者に下した処分により、使用者と労働者の間に紛争が起きた場合、労働争議案件として受理するか否かは、幾つかの状況に分けて判断すべきである。使用者による処分が罰金等で、特定的又は段階的であり、労働契約の解除や変更に係らない場合には、使用者が労働者に対し人事権を有していることから、係る紛争を労働争議案件として受理することは妥当ではない。使用者による処分が労働契約の解除や変更に係り、又は罰金や損害賠償などにより労働者の生活に影響を及ぼした場合は、係る紛争は労働争議案件として受理することができる。」
従って、従業員が会社の処分について労働仲裁を申立した場合は受理されるか否かは大方、以下の2点により判断できると思われる。
まずは、会社による処分が労働契約に変更(例えば、労働契約の変更や解除など)を引き起こすか否か。労働契約に変更がなければ、係る紛争は、労働争議案件として受理されない。従業員は往々にして「毎回の処分が軽くても、累積により労働契約の変化を引き起こす可能性がある」と主張するが、処分の累積により契約の変更又は解除を引き起こした場合、司法機関は全ての会社による処分の根拠及び合理性について審査を行うので、その都度、会社の処分を干渉する必要がない。さもなければ、司法資源の浪費だけでなく、企業の自主的な経営権に対する過干渉になる。
次に、会社による処分は労働者の生活に影響を与えるか否か。『労働法』等法律法令、司法解釈の規定によると、従業員は会社に損失をもたらした場合、賠償責任を負う。損害賠償を行う際に、月ごとに従業員の賃金から控除することができるが、従業員の生活に影響を与えてはならない。具体的に以下の2点に注意すべきである。①従業員の賃金の20%を超えないこと。②控除後の賃金は最低賃金を下回らないこと。又、損害賠償ではなく、罰金処分の場合は、通常、係る紛争は、仲裁機関より受理されない。
尚、使用者に注意して頂きたいことは、前述したように、処分の累積により契約の変更又は解除を引き起こした場合は、仲裁機関又は裁判所はその都度会社による処分の合法性及び合理性を審査するため、会社は書面による警告などの処分を軽率に行ってはならない。さもなければ、処分の累積回数が解雇条件を満たしたとしても、処分に係わる根拠や証拠が不足しているため、一方的に契約を解除する勢いがなく、又は一方的に契約を解除した後、違法解除と認定される。