外国人が中国で自動車を利用する場合のリスク及び対策

    中国で就業又は就学する外国人の増加につれて、外国人に係る交通事故の報道もよく耳にするようになった。特にカーシェアリング等新たなリース方式の登場により、外国人は車を購入しなくても気軽に利用できる半面、新たなリスクにも直面している。 

    外国人が中国で車を利用することによるリスクは、主に二種類ある。一つは、外国人自らの運転に伴うリスク、もう一つは、交通事故に遭うリスクである。

    外国人が自ら運転する場合は、主に二つのリスクがある。一つは、多くの外国人は外国運転免許証又は国際運転免許証を持っていることを頼みとして、中国運転免許証を取得していない。しかし、中国は国連『道路交通条約』に加入していないため、外国人が中国国内で運転するには、中国の交通管理機関から発給された有効な運転免許証を持たなければならない。さもなければ、無免許運転と見なされ、通常、罰金、拘留に処される。運転手が無免許運転により交通事故を起こし、1人以上に重傷を負わせ、かつ交通事故に対して主要な責任を負う場合は、過失運転致死傷罪となる(免許運転証を持っている状況下では、交通事故を起こし、1人が死亡し又は3人以上が重傷を負う場合は過失運転致死傷罪となる。)。又、その場合は、自動車損害賠償責任保険(強制保険)会社、任意保険会社共に賠償金を支払わないため、全ての損失は運転手が負担することになる。もう一つのリスクは、外国人は中国で交通事故を起こした場合、解決するまで出国が許可されない恐れがあることである。中国『民事訴訟法』及び道路交通事故処理関連規定によると、外交特権及び外交代表の管轄免除権を有する特殊な状況を除き、外国人が中国で交通事故を起こした場合、公安機関は交通事故解決まで当該外国人に対し出国禁止を命じることができる。従って、外国人は中国の交通ルールや事情を十分に把握していない状況下では、自ら運転することは避けた方が良いと思われる。

    交通事故に遭う確率は低いが、外国人はリスクに対する意識を高めながら、中国における交通事故による損害賠償の規則を把握する必要がある。

    『渉外民事関係法律適用法』第44条では、「不法行為責任は、不法行為発生地の法律を適用する。但し、当事者に共通の経常的居所地がある場合、共通の経常的居所地の法律を適用する。」と規定している。

    よって、通常、外国人が交通事故に遭い、訴訟に至った場合、中国の法律に従い賠償額を計算する。『人身損害賠償事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』第30条では、「賠償権利者の住所地又は経常的居所地の都市住民一人当たりの可処分所得又は農村住民一人当たりの純収入が、訴訟を受理した裁判所所在地の基準を超える場合は、賠償権利者の住所地又は経常的居所地の基準に従い賠償額を計算することができる。」と規定している。従って、外国人もその経常的居所地の状況によって自分に有利な主張をすることができる。但し、注意すべきことは、外国人が当該条項の規定をいかに適用するかについては、各地方の裁判所の意見にばらつきがあるということである。例えば、上海、広東では「訴訟を受理した裁判所の所在地の基準に従う」ことを明文化している(詳細は、上海市高級人民法院による『〈道路交通事故損害賠償案件の審理における若干問題に関する解答〉の配布に関する通知』、広東省高級人民法院と広東省公安庁による『〈道路交通安全法〉施行後道路交通事故案件の処理における若干問題に関する意見』参照)。また、浙江省では、司法実務において、訴訟を受理した裁判所の所在地の基準に従うとされている。更に、福建省高級人民法院民一法廷による『人身損害賠償紛争案件の審理における難問に関する解答』では、「外国人は、『解釈』第30条に合致することを証明できる証拠がある場合、中国各地における最高基準により賠償額を計算する。」としている。従って、当事者は具体的な交通事故発生地の関連規定又は司法実務の規則を確認しておく必要がある。

    外国人間に交通事故が発生した場合、同じ国籍(例えば、両方とも日本人等)であり、又は外国における共通の経常的居所地がある場合は、前述の規定通り、賠償を請求する当事者は外国の法律を適用するよう主張することができる。

    又、示談の段階において、『渉外民事関係法律適用法』第44条後段(注:「不法行為の発生後、当事者が協議により準拠法を選択する場合、協議の結果に従うものとする。」の利用可能性について留意しておくこと。交通事故の加害者の経済状況などを十分に把握したうえで、その同情を求め、被害者の所属国の法律を適用して賠償額を計算し、合意に至ることは最善策である。

    尚、協議しても合意できない、又は訴訟を行っても思った通りの結果が出ないリスクがあることから、外国人は商業保険に加入し、多方面からリスクを低減するよう提案する。