知的財産権訴訟における当事者一方の自発的な依頼による鑑定意見の効力と注意事項

    『民事訴訟法』第63条で規定される8種の証拠には「鑑定意見」が含まれている。但し、民事訴訟法第76条によれば、司法鑑定には、①当事者から法院への申請によるものと、②必要があると法院が認めた場合、その職権によるものと、がある。従って、実務において、当事者が一方的に司法鑑定機構に鑑定を依頼することは法的根拠が不足し、係る鑑定意見が第63条で規定される法的証拠に該当しないという見方がある。

    しかし実際は、上述の考えは間違っている。『民事訴訟証拠に関する最高人民法院の若干規定』(以下『民事訴訟証拠規定』という)第28条では、「当事者が自ら関連部門に依頼し発行した鑑定結論」に対して相手当事者が改めて鑑定を申請する際の条件を定めており、この規定の潜在的な前提としては、当事者一方の自発的な依頼を認めることであろう。

    『民事訴訟証拠規定』第27条と第28条では、それぞれ「裁判所が鑑定を依頼した場合に相手当事者が改めて鑑定を申請する」、「当事者が鑑定を依頼した場合に相手当事者が改めて鑑定を申請する」際の立証要求を明確にしている。前者の場合に、異議を申し立てる当事者が以下のいずれか一つの状況を証明できれば、裁判所は許可する:①鑑定機構又は鑑定者が鑑定資格を有しない。②鑑定手続が著しく法律に違反する。③鑑定結論の根拠が明らかにしている。④取り調べたものが証拠としてと認められない。後者の場合に、異議を申し立てる当事者は鑑定結論を反駁するのに十分な証拠を提出しなければならない。

    知的財産権侵害事件において、原告は訴訟前に一方的に知的財産権司法鑑定機構に対し鑑定を依頼することが多い。その原因は、知的財産権の無形性は、証拠を掴むタイミングの重要性を決めるからで、当事者は往々に、適時な公証及び鑑定を証拠とし、勝訴の可能性を判断するための重要な手段とする。一方、知的財産権の技術要素及び専門性は、多くの事件において、専門機関の権威ある技術分析?判断の必要性を決める。

    しかしながら、知的財産権の無形性及び弾力性により、当事者は一方的に鑑定を依頼する際に、関連事項に特に注意しなければならない。そうすることで、裁判所が審査後に鑑定意見を採用しないリスクを減らし、相手当事者が鑑定結論を反駁し、改めて鑑定を申請する可能性も低くなる。

    判例により反映されている、裁判所の審査のキーポイントから見て、知的財産権侵害事件の原告が一方的に鑑定を依頼するときに、特に以下の事項に注意を払う必要があると思われる。

    第一に、鑑定用の材料の真実性、合法性及び関連性を確保すること。例えば、鑑定対象が技術的な営業秘密の場合、原始取得(研究開発)なのか又は受継取得(譲受又はライセンス)なのかを判断する十分な証拠により支えられなければならず、かつ予め係る技術考案が自由技術に該当するか否かを確認しておかなければならない。又、鑑定機構に侵害被疑品との比較について鑑定を依頼する際、侵害被疑品の出所は合法的でなければならない。通常、公証機関による侵害被疑品の購入は、一般的で妥当な手段とされている。実務において、侵害被疑品の価格が非常に高い、又は取引当事者の範囲が極めて限定されている等の原因により、実物を取得できない場合もある。そのような場合は、取得したビデオ又は写真が係る技術考案の特徴をはっきりと示すことができ、かつ関連のウェブサイト又は製品パンフレットなどの証拠により裏付けができる場合は、裁判官に認められる可能性がある(例えば、(2015)滬民知初字第748号)。

    第二に、鑑定機構とのやり取りや資料引き渡しに注意すること。依頼者は資料の修正、再提出などを避けるため、資料提供の方式、資料の書式等が鑑定機構の要求を満たすように注意すべきである。又、『司法部司法鑑定手続通則』によると、司法鑑定人は独立的、客観的、公正に鑑定を行うものとし、関連規定に違反した訴訟当事者又はその委託代理人との面会を行ってはならない。

    第三に、鑑定人の出廷に当たっての注意事項。『民事訴訟法』第78条には、「当事者が鑑定意見に対して異議を申し立て、又は裁判所が鑑定人の出廷が必要と判断した場合には、鑑定人は出廷して証言しなければならない。裁判所の通知があるにもかかわらず、鑑定人が出廷?証言を拒否する場合には、鑑定意見を事実認定の根拠にしてはならない。」と規定している。鑑定者の専門能力、表現能力は鑑定意見の採用の可否に大きな影響を与える。従って、依頼者は依頼前に、鑑定機構及び鑑定人の得意分野、技能などを十分に把握すべきである。又、依頼者は適切な方法により、詳細で理解しやすい資料をできる限り提供し、鑑定者が事件に係る技術を十分に把握できるように協力すべきである。