従業員本人の意思によって社会保険に加入しない場合、使用者にはリスクがあるのか?
2014年、陳さんはA社に入社した。入社時に、陳さんは「社会保険料の個人負担分を負担したくないため、社会保険に加入しない」と述べ、「会社による社会保険料の納付を自ら放棄し,それにより、もたらされるあらゆる結果も自ら責任をとる。」と記載した『承諾書』をA社に提出した。しかし、2017年、陳さんは突然、A社が社会保険料を納付しなかったと一方的に労働契約を解除した上、A社に対し経済補償金の支払いを要求した。
実務において、本件のようなケースは珍しくない。では、陳さんの主張は労働仲裁機構と裁判所に認められるだろうか?
答えとしては、会社の所在地によって、従業員の経済補償金の主張が認められるケースもあれば、棄却されるケースもある。その根本的な原因は、この問題について各地の司法実務規則が統一化されていないからである。例えば、北京の司法機関は、肯定派で、北京市高級人民法院と北京市労働人事争議仲裁委員会が連名で公布した『労働争議案件の審理における法律適用問題に関する解答』第25条では、その場合での労働者の経済補償金の支払請求を認めると明確に定めている。江蘇省と浙江省の司法機関は、否定的な意見を持っており、江蘇省高級人民法院江蘇省労働争議仲裁委員会による『労働争議案件の審理に関する指導意見』第16条及び浙江省高級人民法院による『労働争議紛争案件の審理における若干難問に関する解答』第11条では、労働者の経済補償金の支払請求を認めないとしている。上海では、使用者の主観的な心理状況によってケースバイケースで判断することになる。上海市高級人民法院による『労働契約法の適用における若干問題に関する意見』第9条には、「使用者に悪意がない場合に(注:労働者が強いられていないことを証明できる証拠があると解すればよいと思われる)、労働者の主張を認めない。」と規定している。広東省では、事前手続を設けている。広東省高級人民法院の『労働人事争議案件の審理における若干問題に関する座談会摘要』第25条には、「労働者は事後に翻意した場合、使用者に対し社会保険料の追い払いを要求することができる。合理的な期間内に使用者が追い払いをしない場合、労働者の主張を認める。」と規定している。
但し、一部の地区において従業員に経済補償金を支払うリスクがないとしても、『労働法』第72条及び『社会保険法』が、労働者のための社会保険料の納付は使用者の法定義務であるとして定めているため、使用者が法に逆らい、納付していない場合は、以下のリスクがある。
第一に、行政処分。『社会保険法』及び関連規定によると、使用者が期限通りに社会保険料を満額納付しない場合、社会保険料徴収機構は期限を設けて納付する、又は不足分を補填するよう命じる。又、未納日から、日ごとに0.05%の滞納金を徴収する。期限を超えてもなお納付しない場合、関連行政部門は未納額の倍以上3倍以下の過料を科す。
第二に、社会保険未加入による労働者の損害を補償するリスク。社会保険料が納付されていない場合に、労働者が「自ら関連責任を負う」ことを承諾したにもかかわらず、社会保険生育手当、労災により享有すべき待遇など、社会保険でカバーされるべき費用が発生した場合、司法機関は通常、使用者に対し労働者の損害を補償するよう命じる。