契約の相手方が誰であるか、本当に知っているのか?
標題を見ると、「冗談じゃないよ、知ってるに決まってるじゃん」と一顧の価値もないと思った人は多いだろう。残念ながら、現実はいつもそうとは限らない。一例を挙げれば、王さんは、自分の新しいマンションの内装を行うため、わざわざ知名度の高い内装工事業者K社の「支店」と契約を締結し、費用を支払った。しかし、工事がまだ始まらないうちに、その「支店」が突然クローズした。王さんは契約書を持参し、K社に対し対応を求めたが、「係る契約に押印した主体はK社の支店ではない」と告げられた。改めてきちんと確認した結果、王さんは、契約書に書かれている主体は役所に登録も行わていなかったことに気付いた。その結果、王さんが自分の権利を守るために気の遠くなるような長い道のりを歩まないといけないことが決定した。
実務において、本件のようなケースは珍しくない。例えば、契約締結時に、相手方のビッグボスのみの名前だけを重要視した結果、紛争となってはじめて相手方がそのビッグボスが所有するものの、信用度の低い別会社であることが判明したケースがあれば、紛争解決時になって初めて相手方の社名と押印された社名が一致していないことが判明したケースもある。このような状況は、往々に当事者が権利を守ることに対して大きな障害となる。
実務において、法的リスクを下げるために、企業は以下の措置を講じること考えられる。
個人と契約を締結する時に、以下のことに注意すべきである。(1)同名、偽名のリスクを有効に低下させるため、契約書に記載される当事者の氏名、身分証明書などの情報が真実であることを確認する。できる限り相手方に身分証のコピーを提供してもらう。(2)署名代行などのリスクを避けるために、面と向かって契約を締結したほうがベター。
企業と契約を締結する時に、以下の方面から相手方の主体を把握する。
先ずは、協議の段階で、相手方の契約締結主体の名称を明確にする。仮に相手方の法定代表者と直接協議しても、相手方の主体の情報を慎重に調査する必要はある。実務において、法定代表者が複数の企業に対し出資していることはよくある。それらの出資対象者である企業の経営状況や契約履行能力などは全く異なる可能性があるため、相手方の契約締結主体を確認した後、契約締結前に企業信用情報調査システムなどにより、相手方の企業の工商登記情報及び経営状況などをきちんと調査する。
次に、契約締結時に、契約に記載される相手当事者の名称の正確性、押印と当該名称の一致性を慎重に照合する。これまでの取引履歴がある場合も、取引履歴と契約記載を見比べ、相手方の名称や押印が変更されていないか否か、工商変更登記情報と一致するか否かを確認する。
最後に、署名者の権限。企業の場合は、通常、法定代表者又はその授権代表が契約を締結する。法定代表者とは、『民法通則』(2017年10月以降、『民法総則』に切り替える)の通りに、法的に法人を代表して職権を行使する責任者を指し、法人による委任書がなくても、法人を代表にすることができる。授権代表とは、法人の委任を受け、法人の特定の民事権利を行使できる自然人を指す。授権代表が出席した場合、ビジネス上理由で、当事者が、相手方に対し契約締結の権限の有無を確認し、又は委任書の提供を要求するなどをあまり言えない場合もある。この場合に、契約締結前に相手方のビジネスメールアドレスに送信し、かつ相手方の企業において権限を有する人に転送するなどをすることにより、相手方の権限を間接に確認することが可能であると考えられる。そうすると、相手方の企業において権限を有する人が関連メールを見なかったなどの原因により、権限を有しない人が関連契約を締結することとなった場合も、表見代理が成立すると認定される可能性が高い。