「業務に不適任」を理由に従業員を解雇する場合は慎重に

    王さんは行政担当者としてA社に入社後、6年間勤めていた。しかし、産休後、王さんは遅刻や早退を繰り返す他、物忘れ等、仕事に対するやる気感じられない状態になり、業績考課も不合格となった。A社は「業務に不適任」と、王さんに財務部署への配置転換を命じたが、王さんはなお業績考課に合格しなかった。その後、A社は『労働契約法』第40条第2項の規定に従い労働契約を解除したが、最終的に裁判所により不当解雇と認定された。

    『労働契約法』第40条第2項には、「労働者が業務を全うできず、職業訓練又は職場調整を経てもなお業務を全うできない場合、使用者は労働者に対し経済補償金を支給後、一方的に労働契約を解除することができる。」と規定している。しかし、現状から見て、各地の判決では、使用者の主張を認めるケースは、10%未満である。

    問題はどこにあるのかというと、主に実体上の問題及び手続上の問題にかかわる。

    実体上の問題について、よく見られるものは二種類がある。その一つは、「業務に不適任」に該当しないと判断されたケース。もう一つは、不合理的な配置転換が行われたケース。

    「業務に不適任」の定義については、元労働部『<労働法>若干条文に関する説明』(労弁発[1994]289号)のみで言及されており、即ち、「「業務に不適任」とは、要求に従い労働契約で約定された任務内容又は同一の業種、職場にある労働者と同程度の労働量を遂行することができないことを指す。」。つまり、「業務に不適任」の要は、「約定される任務」と「業務量」にあり、係る基準を定量的に示す必要がある。従って、使用者は労働者と労働契約において具体的な任務を約定しておくことができる。例えば、投資ディレクターとの間に、「1年間の間に何件の投資プロジェクトを完成しなければならない」などと約定することが考えられる。また、金額や数量で評価できる職務については、相応の指標(例えば、生産ラインの作業員の場合、「日当たりの良品数」、セールスマンの場合、「月間売上高と売掛金の回収金額」など)を約定することができる。但し、任務が明確できない、又は業務が数値化できない職務の場合は、適任か不適任かの判断は柔軟性と主観性に依るところが大きいため、「業務に不適任」という理由で労働契約を解除しても往々に司法機関より容認されない。逆に、そういった場合は、試用期間内に採用条件を満たさないことを証明する、又は労働者が著しく規則制度に違反したなどを理由に、一方的に解約すれば認められる可能性が比較的に高くなると思われる。当然、その前提として、使用者が規則制度において試用期間の採用条件、解雇事由などを明確かつ合理的に定めておくことである。さもなければ、従業員を処分する時になってはじめて罰則不足を痛感することになる。

    配置転換の合理性については、司法実務観点によると、よくある問題は以下の通りである。(1)使用者が配置転換を行う際、従業員の専攻や技能を十分考慮しなかった。例えば、文頭に記載した事案において、A社による総務部から財務部への配置転換は不合理と認定される可能性が高い。(2)配置転換後もなお「業務に不適任」の判断基準に従う、即ち、配置転換後に新たな職務評価基準を直接適用できるかについては、司法実務における一部の裁判官は否定的な意見を持っている。例えば、(2010)滬二中民三(民)終字第1462号判決書では、「契約で約定される職務以外の業務に不適任と判断した場合、なお訓練又は配置転換を行う必要がある。さもなければ、不正解雇に該当する。」と指摘している。 従業員に対して訓練を実施したり、合理的な改善計画を立てたりすることで、不正解雇と認定されるリスクを下げることができる。例えば、(2011)滬一中民三(民)終字第488号事件において、裁判官は、「配置転換を行った後もなお改善計画の要求を満たさない場合に、使用者が「業務に不適任」を理由に労働契約を解除することは法律に合致する。」と判断した。

    最後に、手続上の問題も、法規定自体は明確であるにも関わらず、ついつい見落としがちなポイントになっている。『労働契約法』の関連規定によると、「業務に不適任」を理由に労働契約を解除する場合は、「業務に不適任」+「配置転換又は訓練」+「なお業務に不適任」+「労働組合に通知する」という法的手続を行わなければならない。この問題に対して、企業は、「九仞の功を一簣に虧く」ことを避けるために、特に注意を払うよう勧める。