労働契約解除通知書の内容の確定
A社は『販売管理規程』において「正常な販売価格を下回って取引を行う場合、経理課の承認を得なければならない、さもなくば、1回の重大過失として記録にとどめる。」と定めている。しかし、営業課長の銭さんは経理課の承認を得ずに、無断で、価格を下げて友人の会社に対し販売を行った。結果、それによりA社は17万の損失を受けることとなった。A社は銭さんが著しく規則制度を違反したことを理由に、労働契約を解除すると決定し、銭さんに対し『労働契約解除通知書』を送付したところ、銭さんは働仲裁を提起した。そしてその結果、労働仲裁委員会は、『販売管理規程』に基づき、銭さんの行為について重大過失として記録にとどめるべきのみで、労働契約を解除するべきではないと判断し、「A社による違法解除」と裁決を下した。
2008年に『労働契約法』が施行されてから、雇用企業による労働契約の解除に対して厳しい要求が突きつけられている。実務において、詳細な規則制度を制定することにより、違法解除のリスクを抑制する企業が多くなってきている。但し、規則制度という「武器」が不当に利用されると、雇用企業自身に損失を与える場合もある。本件において、『販売管理規程』に照らして、銭さんの行為について重大過失を記録にとどめるべきで、労働契約を解除するべきではないため、直接『販売規定』を適用することは明らかに妥当ではない。実際、この場合に、A社は『労働契約法』第39条第3項の「著しい職務怠慢、不正利得行為により雇用企業に重大な損害を与えた場合」を切り口として、銭さんに対処できることが考えられる。従って、『労働契約解除通知書』の内容の確定は慎重に行うべきである。
大量の労働紛争事件の審理に反映された実務ルールに基づき、企業は『労働契約解除通知書』を準備するにあたって、以下のポイントに注意を払う必要がある。
1、労働契約解除の法的根拠が『労働契約法』第36条と第39条のどちらであるかを明確にする。実務において、企業が『労働契約解除通知書』の定型文書を利用し、記入する際に、解除の法的根拠を記載していないため、従業員が企業による違法解除を主張したケースが珍しくない。
2、事実概要を記載するほか、依拠とされうる規則制度の関連条項をすべて列挙する。個別案件において、従業員の行為が社内規則制度における特定の条項と少しだけ異なる場合や、又は複数の条項に係る場合があるが、仮に企業が『労働契約解除通知書』において社内規則制度における一つの条項のみを適用し労働契約を解除するというような内容を明記した場合、訴訟において裁判所に認められなければ、違法解除になる。逆に、企業が事実を概括する一方、従業員の行為を細分化せず、根拠となりうる規則制度の関連条項をすべて列挙しておけば、訴訟において具体的な状況に応じて、複数の角度から攻めるのか又は重点を捉えて集中的に戦うのか、というように柔軟に対応することが可能になると思われる。
3、規則制度を整理し、規則制度間に矛盾がないようにする。
4、労働仲裁の申し立ての時効が1年であるため、企業は、従業員の規則制度違反に関連する証拠を少なくとも1年以上保存する必要がある。例えば、(2015)黄浦民一(民)初字第1456号事件では、裁判所は、「企業は従業員が規律違反行為を行ったことを証明できない」ことを理由に、企業による違法解除と認定した。