複数の商標専用使用権問題及びその対策
商標権者甲は乙と商標独占使用許諾契約を締結した後、丙とも同一の商標について商標独占使用許諾契約を締結した。この場合、商標独占使用許諾権の帰属をいかに確定するか?乙は丙に対し訴えを提起して権利侵害の停止及び損賠賠償を請求することができるのか?それとも乙は甲の違約責任を追及する訴えを提起するほかないのだろうか?
上記の質問を答えるには、二つの要素を考慮する必要がある。その一つは、係る商標独占使用許諾契約の届け出手続きが行われていたか?もう一つは、後に使用許諾を受けた者(以下「後の被許諾者」という)が善意の者であるか?
『最高人民法院による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』(以下『解釈』という)第19条第2項には、「商標使用許諾契約が商標局にて届出を行われていない場合は、善意の第三者に対抗することはできない。」と規定している。
先に使用許諾を受けた者(以下「先の被許諾者」という)が商標独占使用許諾契約の届出を行った場合に、通常、後の被許諾者が善意の者であると認定されないことは明らかである。
後の被許諾者が商標独占使用許諾契約の届出を行った場合に、後の被許諾者が「届出済み」を理由に後の被許諾者に対抗することができるか否かは、後の被許諾者が善意の者であるか否かによって決まる。一つの典型的な事例として挙げられる上海帕弗洛文化用品有限公司等とピカソ国際企業株式会社との商標使用許諾契約紛争案件二審判決書(〔2014〕滬高民三(知)終字第117号)において、裁判所は下記のような観点を述べた: 後の被許諾者が善意の者である場合、その商標使用許諾契約は先に権限を与えられた商標独占使用許諾契約に対抗することができ、先の被許諾者は違約責任を追及するなどの方式により、自らの権利を守ることができる。又、「善意」について、『解釈』第19条の「善意の第三者」とは、後の被許諾者が商標権者により授権を与えられた時に、その他の独占使用許諾権が既に存在していることを知らない者を指す。なお、「知らない」ということの証明度は、授権者との悪意のある結托行為を証明する証明度よりはるかに低い。
二つの商標独占使用許諾契約の何れも届出を行われていない状況下で、後の被許諾者が善意の者である場合、債権の立場から見れば、債権が平等であるため、契約の効力は債権の成立の順序によって異なるわけではない。従って、先の被許諾者と後の被許諾者はいずれも相手方に対し商標の使用を停止するよう主張することができない。商標権侵害の立場から見れば、「商標使用許諾契約が商標局に届出されていない場合は、善意の第三者に対抗することはできない」規定を根拠として、何れの被許諾者も商標権侵害にならないと抗弁することができる。つまり、その場合、両被許諾者は許諾者に対し違約責任を追及するほかない。
よって、実務において、商標使用許諾が実際に「非独占」となるリスクを下げるために、被許諾者にとっては、以下のことが考えられる。
第一に、被許諾者は商標権者と契約を締結する前に、係る商標の状況についてデューディリジェンスを行うこと。
第二に、被許諾者は商標独占使用許諾契約において許諾者の届出義務を明確にし、支払と届出をリンクさせ、かつ多額な違約金を約定すること。更に、可能であれば、「商標独占使用許諾契約が届出の日から効力を生じる」ことを約定するよう勧める。
第三は、契約締結後に、許諾者に対し届出手続を早く行うよう促すこと。