経済補償金の計算基数について

    陳さんと勤務先の会社は協議の上、労働契約を解除することに合意した。しかし、会社から支払われる経済補償金を算出する際に社会保険料及び住宅積立金の個人負担分と残業代が控除されるべきではないと陳さんが主張したため、双方は紛争となった。

    『労働契約法』第47条によると、経済補償金の基数とは労働者が労働契約の解除又は終了前12ヶ月の平均賃金を指す。『労働契約法実施条例』第27条では、「労働契約法第 47 条に定める経済補償の月給は、時給又は出来高賃金、ボーナス及び手当等の貨幣性収入を含む、労働者の取得すべき賃金に基づき算定する。」と規定している。但し、実務において、「月給」に残業代、社会保険料、住宅積立金等が含まれるのか否かについては議論となる点が多い。

    第一に、残業代について。『労働契約法実施条例』第27条では「月給」は「取得すべき賃金」としている。これに対して、元労働部『賃金支払暫定規定』第3条の規定(“賃金とは、使用者が労働契約の規定に基づき、各種の方式により労働者に支払う賃金を指す。”)を根拠に、「取得すべき賃金」には残業代が含まれるべきという観点を支持する者がいれば、元労働部『<中華人民共和国労働法>の徹底的実施における若干問題に関する意見』第55条(“賃金とは、労働者の正常な労働時間内の労働報酬を指す。”)を根拠に、「取得すべき賃金」には残業代が含まれるべきではないという正反対の観点を持つ者もいる。

    上海市高級人民法院による『民事法律適用問答』(2013年第1期)と上海市人力資源・社会保障局の公式ウェブサイトでの回答では、いずれも「取得すべき賃金」には残業代は含まないという意見を表明している。一方、一部の地方の司法機関は「取得すべき賃金」には残業代が含まれるべきだと反対の意見を持っている。例えば、江蘇省高级人民法院(2015)蘇民再提字第00088号案件、深圳中院(2015)深中法労終字第1416号案件など。

    第二、住宅積立金及び社会保険料について。『賃金総額構成に関する規定』第11条には、「労働保険と従業員福利に関連する諸費用は賃金総額に計上されない。」と規定している。それにより、社会保険料と住宅積立金が「月給」に計上されるか否かについて議論が起こる。現時点での普遍的観点としては、社会保険料及び住宅積立金の個人負担分は「月給」に計上されるというものである。その主な根拠は、『賃金支払暫定規定』第15条である(“使用者は正当な理由なく労働者が受領すべき賃金からその一部を控除してはならない。以下のいずれか一つの状況に該当する場合は、使用者は労働者の賃金より控除代行を行うことができる。①使用者が源泉徴収する個人所得税;②使用者が源泉徴収する労働者により負担すべき社会保険料。”)。上海市高級人民法院は、『労働争議案件の審理における若干問題に関する意見』(滬高法民一[2007]7号)において、「使用者が源泉徴収する社会保険料及び税金などは、全て従業員個人の労働所得の構成部分であり、使用者がただその源泉徴収義務を負う。よって、当該部分は賃金収入に計上され、経済補償金を算出する際にはそれを考慮すべきである。」と指摘している。

    但し、微妙なのは、司法実務において、労働者が住宅積立金及び社会保険料の個人負担分を月給に計上することを主張しない場合は、司法部門は通常釈明や干渉しない。

    従って、使用者は、適切に関連問題を処理するために、経済補償金基数の算出において、所在地の司法実務傾向(特に残業代が入れるべきかなど)及びその変化を適時把握するべきである。