地方政府の承諾は棚から牡丹餅かそれとも罠か?

    某日本会社が出資して中国に子会社A社を設立する際に、某地方政府は、たくさんの魅力的な承諾を行った。例えば、A社が一定割合の従業員の社会保険料を納付しなくてもよい、又約定期間内に固定資産投資額が一定の金額を満たしたら、工場建物の所有権を無償で取得できるなど。しかしながら、数年後、労働監察部門は摘発を受けて調査した結果、A 社に対し『労働契約法』及び『社会保険法』などの規定に従って、労働契約を締結している全ての従業員のために社会保険料を納付するよう要求した。A社は、既に地方政府の承諾を得たことを説明したが、労働監察部門に認められなかった。A社はどうすればいいのか分からずう困惑してしまった。

    実務において、本件のような外資誘致に係る承諾以外に、①企業の融資問題を解決するために、政府が金融機構に対し承諾書を発行する、②政府が地方政府融資プラットフォーム会社(注:投資の資金調達のために設立された)のために担保を提供する、などもよくみられる承諾のパターンである。しかし、最高人民法院による(2014)民四終字第37号判決(遼寧省人民政府が発行した『承諾書』が保証を構成しないと認定された)を含む多くの判決から見ると、地方政府の承諾は必ずしも法的効力を有するわけではないことがわかる。その場合に、係る企業は、政府より承諾されたことを実現できなかったため、往々に罠に落ちた感じを受けるのである。

    では、企業の立場から見て、政府による様々な承諾の効力をいかに判断すべきか?

    一番目は、承諾の主体を確認すること。要するに、承諾を行う政府部門及びその責任者が相応の権限を有しているか、又は正当な授権を得ているかを確認する。

    二番目は、承諾の内容。実務において、地方政府は、企業が銀行から融資を受ける行為、又は融資プラットフォーム会社が融資を行う行為に対して承諾を提供することが多い。『担保法』第8条には、「国家機関は保証人となってはならない。但し、国務院の批准により、外国政府又は国際経済組織の融資を使用するために転貸を行う場合は除く。」と規定している。また、『予算法』(2014年改正)には、「法律に別途規定がある場合を除き、地方政府及びその所属部門はいかなる企業又は個人の債務のために、如何なる方式での担保を提供してはならない。」と規定している。更に、『地方政府性債務管理の強化に関する国務院の意見』(国発〔2014〕43号)が公布された後、地方政府の担保範囲は明らかに「政府が外債転貸のために担保を提供する」ことに限られ、それ以外の担保の法的効力は認められない。上記の姿勢は、既に若干の判決に反映されている。従って、担保的性質を有する承諾書の場合は、通常、企業は受け入れるべきではない。

    担保的性質を有する承諾書が明確に禁止されている状況下で、実務において、一部の地方政府は、特定の債務問題の解決を促し、協力、支援するなどを内容とする承諾書や保証書簡などを発行する。通常、「解決を促す」、「解決に取り組む」、「解決を協力する」など表現で、文面上、債務者のために保証責任を負い、かつ債務を返済する意思表示ではない。このような承諾の効力については、直近2年間の司法実務から見ると、係る地方政府に対して保証人としての債務返済義務を履行するよう主張しても、通常認められない。例えば、前述した(2014)民四終字第37号において、最高人民法院は以下のことを述べた。「本件における『承諾書』の名称及び内容から判断すると、遼寧省政府は「解決を協力する」のみを承諾し、中遼会社の債務について返済代行の意思表示がなかったため、『承諾書』は『中華人民共和国担保法』第6条に定められている保証に関する規定に合致せず、法律上の保証を構成しない。」 従って、企業はこのような承諾に対して、慎重に検討する必要があり、簡単に受け入れないよう勧められる。又、その他の合理的な代替案がない場合には、関連地方政府に対し特定の状況下で履行義務を負う第三者を指定して履行を代行させるよう要求することにより、義務の主体を拡大することが考えられる。そうすると、関連の約定は、司法機関より認められる可能性が大きいと思われる。

    最後に、上記以外の地方政府による承諾、例えば、文首A社に対する社会保険料の「優遇」に関する承諾や条件付の工場建物無償取得などの承諾について、企業は承諾事項に係る法律法令、地方規定、政策をチェックし、法的根拠が確実に存在することを確認した場合のみに、政府の承諾を受け入れることを考慮する。又、政府の承諾を受け入れる際に、①書面の方法を採ること、②内容を慎重に確認すること、及び③権限を有する主体の署名・押印を取得することなどに注意を払う必要があると思われる。