中国における商業賄賂規制の新動向
2015年刑法改正案(九)、最高人民法院・最高人民検察院による『汚職賄賂刑事事件の処理における法律適用の若干問題に関する解釈』の公布で一気に波纹が広がった。多くの企業が商業賄賂を厳罰に処す時代が来ると感じるようになった。
一方、『2015—2016中国反商業賄賂調査研究報告』の関連データによると、全国の工商管理機関により取り締まられた商業賄賂事件は2013年度4521件、2014年度 2986件、2015上半期669件と減少傾向が見られる。各級の裁判所が終結した汚職賄賂犯罪事件は2013年度29000件、2014年度31000件、2015年度34000件であるが、近年、公務員の腐敗汚職事件をより厳しく取り締まっていることを考えると、そのうちの商業賄賂事件件数が増加しているとは言えないだろう。つまり、結論としては、法律の改定により商業賄賂に関する法律の執行が強化されていないようである。
しかし、上記の結論は一面的であるに過ぎない。工商管理機関により取り締まられた商業賄賂事件が減少する主な原因は、工商管理機関自身の体制の調整及びそのほかの機関との統合にある。下記の種々の原因によって、間もなく商業賄賂に関する法律の執行は再び高潮を迎える見込みである。
まず、立法動向。『不正競争防止法(改正草案審議稿)』(2016年2月公布、以下『草案審議稿』という)における、商業賄賂の定義(「商業賄賂とは、事業者が取引相手又は取引に影響を及ぼす第三者に対し、経済的利益を供与し、又は供与の約束をし、事業者のために取引機会又は競争優位性の獲得を図るように仕向けることを指す。」)、列挙されている商業賄賂行為などの改正ポイントから見ると、現行の規定によって商業賄賂に該当するか否かは、不明確な事項(例えば、一部売上の割戻)においては、将来において商業賄賂として認定されることになると思われる。実際は、上述の商業賄賂の定義は、新しく打ち出されたものではなく、中央政府商業賄賂規制指導グループによる『商業賄賂規制の専門作業における政策限界の正確な把握に関する意見』(中治賄発[2007]4号)では既に類似の規定が定められており、また国家工商総局で公開された典型的案件にも言及している。将来、『不正競争防止法』改正案の実施に伴い、関連行政機関及び司法機関は、より詳細な判断規則を制定し、関連事件の判断に全面的に適用することになると推測される。また、『中国人民政治協商会議12期全国委員会第3回会議における中国伝統産業領域に商業賄賂専門規制を展開する提案に関する工商総局の回答』で、「商業賄賂に該当するか否かを判断する際には、贈賄側が競争優位性を取得する手段が合法的であるか否か、また収賄側の市場における主体的地位及び市場競争の状況、及び消費者に対し十分な選択権を与えたか否かなどを考慮すべきであり、更に業界の特徴及び財物の受取側による引への影響に基づき分析・判断を行うべきである。」と指摘しているとともに、「2015年工商総局は、不正競争における目立った問題に打撃を与える法律執行特別行動を手配・展開し、インターネット、自動車及び部品の販売・修理、家具建材の内装装飾、公共企業などの業界や領域を重点とし、社会的関心があり、かつ大きな反響を呼ぶ不正競争に係る目立った問題に打撃を与える」と強調している。当該文書が草案審議稿の直後に公布されたため、その中に規定されている、商業賄賂を判断する際に考慮すべき要素や注目領域などの内容は、今後商業賄賂規則の特徴が反映されるので、企業はそれを重要視しながら研究するべきであると思われる。
もうひとつ注意すべき点として、2016年夏以降、広東を始め、各省・市では市場監督管理についての規定を公布し、商業賄賂事件を含む不正競争事件などの取り扱い手続、証拠要求、処罰規則などを一層明確にしている。従って、企業は、自社の経営の特徴に基づきリスクを洗い出し、また調査を受けた場合の応対体制を構築しておくよう勧める。
上記の纏めとして、工商管理機関の機構改革の遂行及び関連立法の推進につれて、商業賄賂事件数量及び法律執行は顕著に厳しくなっていくと推測される。
次に、関連の商業賄賂抑制策も次々に確立されている。例えば、2016年4月から国家工商総局による「信用喪失企業ブラックリスト制度」を施行している。当該制度によると、商業賄賂行為を含む不正競争行為によって、2年以内に3回以上行政処分を受けた企業は、「ブラックリスト」に入れられ、公開される。「ブラックリスト」に入れられた企業の法定代表者、責任者は3年以内に他社の法定代表者、責任者を務めてはならない。又、最高検察院などの部門も贈賄犯罪ファイル検索などについての規定を打ち出した。
最後に、法律執行の状況から、『2015—2016中国反商業賄賂調査研究報告』によると、第三者による不正行為、不当な割引及び現金割戻は重点的な規制対象となる。又、国家工商総局から公布された典型的案件及び関連評論によれば、設備無償提供による関連製品のバンドル販売、及び商業慣例に違反する高額な品質保証金又は履行保証金設定行為は関連行政機関が新たに注目している点である。