残業代の計算基数をいかに確定するか?
張さんはA社の生産ラインの作業員であり、残業が多い。A社は基本給を基数として残業代を計算、支給している。ある日、張さんは、残業代の計算において手取り賃金をその基数とすべきであることを聞いて、A社に対し手取り賃金を計算基数とするよう要求した。A社は、双方の労働契約において残業代の計算基数が明確に約定されていることを理由に、張さんの要求を拒否した。そしてこれにより、双方の間では紛争となった。
張さんの主張は筋が通っているのか?
現時点で国レベルでは残業代の計算基数について統一的な規定がない。使用者が従業員の手取り賃金をベースに残業代を計算するという主張の法的根拠は、『賃金支払暫定規定』第3条及び『賃金総額構成に関する規定』第4条に拠るものである。前者は「賃金とは使用者が労働契約の規定に従い、各種の方法により労働者に支払う報酬を指す。」と規定しており、後者は「賃金総額は、時間給、出来高払い賃金、奨励金、手当・補助金、残業代及び特殊な状況による賃金の6つを含む。」と規定している。上述の規定から見れば、労働者の全ての収入は残業代の計算基数に含められるべきということになる。その一方で、『労働法』第44条には、残業代は労働者の通常の労働時間における賃金を計算基数とすると明確にされている。言い換えれば、残業代自身は残業代の計算基数に含められるべきではないということである。又、原労働部による『<労働法>の貫徹執行の若干問題に関する意見』(以下『若干意見』という)第55条には、「労働者の通常の労働時間の賃金とは、労働者の職務に応じた賃金を指す。」と規定されている。従って、職務に関係しない手当や補助金は残業代の計算基数に含められるべきではないと思われる。しかし、奨励金については、上述の規定によって結論を直接下すことができない。上記のような状況の下、残業代の計算基数について実務上ばらつきがある。
全体から見ると、各地の司法部門の主な観点及び実務規則は概ね以下の通りである。
まず、労使双方間に月給額について約定がある場合は、原則として労働契約・集団契約で定められた月給額を残業代の計算基数とする。但し、その前提として、所在地の最低賃金基準を下回ってはならない。上海、北京、浙江、広東等の大部分の省・市では、そのような規定が定められている。
次に、従業員への支給額が複数の名目で構成されている場合は、それらを残業代の計算基数に含めるか否かを判断する必要がある。実務において、一部の使用者が従業員の基本給を低く設定して、別途種々の名目をつけたりすることにより、約定されている基本給は、実際の支給額より遥かに低い。司法機関では、各構成部分の判断において、手当や補助金や特殊な状況による賃金などを残業代の計算基数に算入しないという規則を採っている。但し、奨励金に関しては、その種類や性質に多様性があるため、往々に判断規則にばらつきがみられる。例えば、上海では、年末ボーナスのみ残業代の計算基数に含められない(これは前述した『若干意見』第55条の旨の反映であると思わる)と明文化しているものの、職務に応じた月度ボーナス、職務奨励金などは残業代の計算基数に含められると要求される可能性がある。
各地の実務部門では、奨励金の金額が固定金額であう場合(例えば、固定金額の月間奨励金)は、通常の労働時間における賃金の範囲に含められる傾向が見られる。