従業員が退職届を提出した後に翻意できるか?

A社の技師である李さんは2016年1月に上司に対し、「元旦をもって退職させていただきます。」という内容の電子メールを送った。その当日、上司は電子メールで「退職を認めます。」と返事した。翌日、李さんは退職願を撤回しようとしたが、A社はそれを認めず、双方の間で退職届撤回の可否について紛争が生じた。最終的に李さんは労働仲裁機構に対し仲裁を申請した。

『労働契約法』第37にて、労働者の退職の権利が定められており、事前に使用者に対し退職通知をしなければならないという要求以外は、労働者の退職の権利の行使についていかなる付加条件も付いていない。つまり、労働者は退職する場合、使用者の許可を得る必要がない。仮に使用者が規定している規則制度に別途規定がある、又、労働者との間に別途約定があったとしても、退職による損害賠償責任の負担などの問題を発生するだけで、労働者が退職できないわけではない。
従って、一般的に、労働者が退職届を提出した時点で、退職の効力が生じ、労働者は翻意の余地がない。北京、広東、四川等を含む各地区の裁判所及び労働仲裁機構でも全て禁反言の法理によって肯定論を採っている。例えば『北京市高級人民法院、北京市労働争議仲裁委員会による労働争議案件の法律適用問題に関する検討会会議紀要(二)』第38条、『深圳市中級人民法院による労働争議案件の審理に関する裁判手引』第81条第2項など。

しかし、使用者が、注意すべきことは、従業員が退職届提出後に退職届撤回通知書を提出したことに対して、使用者が異議を申し立てず、業務引き継ぎ等も指示しなかった場合、司法機関は、それは使用者が従業員による退職意思の撤回を承認したことであると解し、労働関係が従業員の退職届提出行為によって解除されるべきでないと判断する傾向にある(既に判決例がある)。

なお、実務において、以下の状況のいずれかに該当し、従業員が退職届の提出後に翻意した場合は、司法機関に認められる可能性がある。

一、従業員が精神病罹患期間内に退職の意思を表示した場合。この場合、従業員が民事行為能力を欠き、その意思表示の効力が問題となり、通常、司法機関は従業員の撤回行為を認める。

二、雇用企業が『労働契約法』第38条の違法状況のいずれか一つに該当する場合。この場合に、各地の労働仲裁機構及び裁判所は、従業員が退職を申し出た後に翻意することを認めることが多い。例えば、『深圳市中級人民法院による労働争議案件の審理に関する裁判手引』第81条第2項の但し書きでは、従業員は雇用企業が『労働契約法』第38条第1項の状況のいずれか一つに該当することを証明できる場合、労働仲裁機構は従業員の仲裁請求を認めるべきであると定めている。

三、女性従業員が退職届を提出した後に妊娠に気づき、退職の撤回を要求する場合。この場合、女性従業員の退職行為が「重大な誤解」に該当するか否かについては、司法実務観点にはばらつきがある。例えば、(2014)閘民四(民)初字第53号において、上海市閘北区裁判所は、労働者の労働契約解除に対する誤認が存在せず、その署名による法的責任をも知っているため、「重大な誤解」に該当しないと判断した。逆に、(2014)楊民一(民)初字第7748号において、上海市楊浦区裁判所は、妊娠を判断するには一定の医療手段を利用する必要があり、特に妊娠初期に一般人が自ら判断できない。本件において、原告が妊娠に気づいた日からまもなく契約期間が満了なったため、原告が妊娠に気づいていなかった可能性があり、「重大な誤解」に該当すると判断した。