取締役は自由に辞任することができるのか?
甲有限責任公司の取締役である王さんはその他の取締役の経営理念に合わないため、取締役の職を辞しようとした。しかし、他の取締役と出資者は、王さんが辞任後に、同業の甲有限責任公司と競争が起こることを懸念し、王さんの辞任を認めないと言明した。その結果、王さんはどうしたら良いかわからないジレンマに陥った。
『会社法』では、有限責任公司の取締役の選任や改選について手続き及び規則を明確にしているが、取締役の辞任について明文化されていない。では、定款にて取締役の辞任に関する手続きなども明確にされていない場合には、取締役が辞任を申し出る場合は、株主会の承諾を得なければならないのか?
実務においては、各種の観点にばらつきがあるが、全体的には、このような場合、中国の司法実務では否定論を採る傾向にあり、多くの判決によりそれを反映している。
最高人民法院公報で公布された(2011)東中法民二終字第88号民事判決書はその適例である。当該判決書には、以下の分析がある。「中○公司の定款では取締役辞任の手続きを規定していないため、取締役の辞任手続きは『中華人民共和国会社法』(以下『会社法』という)の関連規定を参照することとなる。『会社法』によると……、会社の取締役は出資者会が選定、改選する。但し、これは、出資者会の招集と承認が取締役辞任の必要条件であることを意味するわけではない。取締役会は会社の重要な組織機構の一つとして、取締役は取締役会の構成員であり、重要な職権を行使する。取締役の職権は策略決定権、表決権を中核とし、主に管理上の機能を発揮するため、雇用従業員と区別して取り扱うべきである。取締役は管理、経営などにおいてその能力をもって会社のために策をめぐらす、言わば会社組織の中心である。取締役が継続して会社の取締役を務める意向がなくなった場合、会社のために有利な提案や計画を提出することができなくなり、取締役と言う価値を失うため、通知による辞任の意思は認められるべきである。」
以上のことから、本件の甲公司の取締役である王さんは自ら辞任する権利を有し、出資者会の承認を得る必要はない。
但し、注意すべきことは、『会社法』第46条には、「取締役の任期満了時にすみやかに改選しない場合、又は取締役の在任期間中の辞任により取締役会構成員が法定人数を下回った場合は、改選により選ばれた取締役が就任するまで、元の取締役は法律、行政法規及び会社定款の規定に従い、取締役の職務を履行しなければならない。」と規定している。従って、取締役を辞任する場合は、当該規定の拘束を考慮すべきである。取締役の辞任により取締役会構成員が法定人数の下限を下回る場合は、原則として、改選により選ばれた取締役が就任してはじめて、もとの取締役は辞任することができるのである。
そうすると、次の問題が出てくる。つまり、もし会社がずっと取締役の改選を行わない場合には、辞任する取締役は無期限で取締役の義務を履行し続けるほかないのか?某取締役辞任に係る紛争事件では、武漢市江漢区人民法院は、「被告会社は原告孫○○が取締役の職を辞する意思を知った後に、直ちに被告会社の取締役会を改選すべきであった。しかし、被告会社は義務の履行を怠けたため、相応の責任を負うべきである」と指摘したうえで、被告会社の取締役会の改選を遂行するまでの合理的期間内に、原告が法に従い取締役の関連義務を履行しなければならない。」と述べた。
合理的期間については、会社の定款に基づき判断すべきである。実務において、通常、取締役が辞任する場合は、取締役会が係る取締役による通知を受けた後、取締役会を召集し、係る取締役の解任及び新たな取締役の任命について提案を行った上で、その提案を出資者会に提出し、出資者会がその提案の決議を行うという流れになる。更に、後任の取締役を選任する所要期間及び取締役会会議及び株主会会議の事前通知の所要日数などを考慮すれば、通常2ヶ月が、合理的な期間であると思われる。