労働者が使用者の通知書に返事しない場合は、同意したと見なされるのか、 それとも同意していないと見なされるのか?
裴さんはA社の従業員である。某日、A社は裴さんに対し、「労働契約合意解除に関する通知」を発行し、通知書には「……会社は貴方と協議により労働契約を解除するつもりであり、本通知受領後3日以内に書面により返事してください。さもなければ、労働契約の解除に同意したものと見なします。」と記載されていた。その11日後、A社から裴さんに対し「労働契約解除通知書」が発行されたため、双方間に紛争が生じた。本件において、最終的に二審判決により、裁判所は、A社による労働契約の解除が違法であると判断した。
労働関係は特殊な私法上の法律関係であり、当事者双方は平等な民事主体である一方、労働者は使用者の管理に服従しなければならない。だからこそ、労働契約における権利義務について、使用者は特に労働者の意思表示に注意を払うべきである。使用者による通知に対して、労働者が返事をしないことは、場合によって、従業員が同意の意思表示をしたものと見なされてよい場合もあれば、仮に双方が「返事をしない場合は、同意したものと見なされる」ことを約定していたとしても、当該約定が必ずしも認められるとは限らないのである。
まず、労働契約の締結及び更新について、『労働契約法実施条例』第5条には、「使用者から書面による通知を受けたにもかかわらず、労働者が使用者と書面による労働契約を締結することを拒否した場合、使用者は書面により労働関係の終了を労働者に通知しなければならない。」と明確に記されている。従って、その場合、使用者が関連通知書において「返事しない場合、同意していないものと見なす」と記載する場合は、その法的効力は認められるべきだと思われる。
次に、労働契約の変更について、『労働契約法』第35条には、「使用者と労働者は協議による合意のうえで労働契約の約定内容を変更することができる。」と明確にしている。従って、かかる通知書において「返事しない場合、変更について同意したと見なされる」とのみ記載している場合は、通常その法的効力はなかなか認められない。特に江蘇、北京など地方の規定には、「15日以内に返事しない場合、同意しないと見なす」と明確な規定が定められている。但し、二つの例外がある。その一つは、従業員が実際に変更後の労働契約を履行し始めた場合は、変更について同意したと見なされる。。『最高人民法院による労働争議案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(四)』第11条には、「労働者が実際に1カ月以上、変更後の労働契約を履行し、、かつその労働契約の内容が法律、行政法規、国の政策及び公序良俗に違反していない場合に、労働契約変更は有効であると見なされる。」と規定している。もう一つは、地方における特別規定がある場合である。例えば、『広東省労働契約管理規定』第16条には、四つの特殊状況の下で、通知された一方は通知を受けた日より 15 日以内に回答しなければならず、期間を過ぎても回答しない場合は、労働契約の変更に同意したと見なす、と規定されている。
最後に、労働契約の解除について、『労働契約法』第36条には、「使用者と労働者は協議による合意の上で労働契約を解除することができる。」と明確に記されている。従って、通常、関連通知書において「一定の期間内に返事しない場合は、同意したと見なす」とのみ記載している場合、当該記載の法的効力が認められることは難しいと思われる。『最高人民法院による﹤中華人民共和国民法通則﹥の貫徹執行の若干問題に関する意見(試行)』第66条には、「暗黙の不作為は、法律規定、又は当事者間に約定がある場合にのみ、意思表示と見なされる。」と規定している。この規定から、使用者は、就業規則又は労働契約において暗黙の意思表示について労働者と約定をあらかじめ行っておけばよいと思うかもしれないが、、前述したように、労働関係には特殊性があり、労働契約の解除のような労働者の利益に密接に係わることに関しては、上記の司法解釈が直接適用されるか否かについては、司法機関が明確な観点がない限り、リスクがあると思われる。