知的財産権侵害の警告書と不正競争
2015年5月に最高裁判所第一巡回法廷が「深セン理邦会社が迈瑞会社を訴える誹謗中傷事件」(以下、「理邦事件」という)において、権利侵害の警告書の性質及びその正当性についての判断基準を述べた。最近、最高裁判所は、本田技研株式会社による権利侵害の警告書の送付を不正競争行為と認定し、本田社に双環社に対し1600万元を賠償するよう命じた。この判決は、特定の権利侵害警告が不正競争行為に該当するかどうかを判断する際の要素と基準を更に明確する裁判例となっている(以下、「本田事件」という)。
権利侵害警告の性質について、最高裁判所第一巡回法廷は理邦事件の判決において、「特許権を保護するために権利侵害の警告書を送付することは、当事者が紛争の解決について協議するための重要な方法と道と見なされ、……特許権利者が特許権を行使する行為でもある。」と指摘している。つまり、権利侵害警告は権利行使行為と認められている。本田事件において、最高裁判所は、「特許権利者が権利侵害の警告書を送付することは、特許権利者が自らの権益を守る一つの道でもあり、協議により紛争の解決を図る方法でもある。法律では、裁判所が権利侵害事件における判決を下す前に、特許権利者により権利保護行為を行うことについて禁止規定がない。……本田技研株式会社が権利侵害の警告書を送付することは、特許権利者が自ら特許権を保護するための自力救済行為に該当する。……」と述べている。それは、権利侵害の警告書は自力救済と権利行使の二つの性質を同時に有することを認めたように思われるが、法理においては妥当性に欠けるところがある。とは言っても、上記の二つの判決によって、協議中であっても、権利侵害に係る判決を下す前であっても、原則として、警告書の送付は認められるということである。(特に理邦事件において、裁判所は更に「権利者が権利を真に行使する場合は、仮に権利行使のタイミングなどを故意に選択しても、自由な権利行使に該当する。それをもってのみ、権利者の行為に不正当性があると認るには不十分である」と明確に指摘している)。
又、別の側面から見れば、最高裁判所による上述の観点は、警告される行為が権利侵害行為に該当するかは、権利侵害の警告書の送付が不正競争に該当するか否かを判断する要素ではないと理解してよい。
警告書の送付が不正競争行為に該当するか否かの判断要素について、理邦事件において、最高裁判所第一巡回法廷は、「権利者の権利状況、警告内容及び送付の意図、対象、方法、範囲など多くの要素を総合的に判断すべきである」と指摘し、又、「特許権利者はその特許権の状況を熟知し、かつ権利侵害に係る事実を知り得た又は知ることができたため、権利侵害の警告書を送付する際は最善の注意義務を尽くすべきであり、特許権侵害と判断した根拠となった情報を十分に開示しなければならない。」という警告行為の正当性に関する判断基準を明確に提出している。従って、実務において、注意義務と必要情報の十分開示は、判断の要素となってきている。
本田事件において、最高裁判所は上述の二つの要素について、「権利侵害の警告書の送付が正当な権利保護行為であるか、それとも競争相手を圧倒するための不正競争行為であるかを判断するためには、権利侵害の警告書送付の具体的な状況に基づき認定し、警告内容の十分性、権利侵害の確定性に重点を置き、権利者による権利侵害警告書の送付を必須条件とする……権利侵害に係る具体的な事実を十分考量、論証した上で判断すべきである。権利侵害の警告書の内容は漠然、曖昧にしてはならず、権利者の身分、主張する権利の有効性、権利の保護範囲及び警告書の送付対象者の行為が権利侵害に係ると疑われる根拠となる必要情報を開示すべきである。権利者が権利侵害の警告書を送付する目的は、警告書の送付対象者に対し権利侵害となる事実の存在を知らせる。……」と更に詳しく指摘している。
そのほか、最高裁判所は、本田事件において、警告書の送付対象者によって、権利者の注意義務も異なることを強調している。つまり、販売者による権利侵害への判断力は比較的弱くて、リスク回避の思惑が強いため、製造者へ権利侵害の警告書を送付する場合の注意義務と比べれば、前者へ警告書を送付する場合の注意義務のレベルは高い。具体的にいうと、警告書において、詳細かつ十分な情報を開示しなければならず、「保護を求める権利の範囲又は権利侵害に係る具体的な情報及びその他の権利侵害判断と権利侵害差し止めに関連する必要情報」を含まなければならない。
上記の纏めとして、知的財産権利者は警告書の送付により自分の合法的な権利を保護する際に、訴えられないようするため、警告書の目的と方式の適法性に注意すべきであると考えられる。