従業員が提供した個人情報が虚偽だった場合、企業は労働契約を解除することができるのか?
康さんはA社の副総経理を務めていたが、A社は康さんが学歴を偽っていたことを発見したため、康さんに対し労働契約の解除を通知した。これにより双方の間で紛争が起こり、康さんは労働仲裁を申請した。最終的に仲裁機構は、本件において、A社が康さんに対し関連する学歴証明の資料提供を要求せず、康さんの学歴の真実性の審査を行わかったと判断し、A社による労働契約の解除は違法にに該当すると裁定した。
『労働契約法』第8条によると、使用者は労働者との労働契約に直接関係する基本的状況について知る権利を有し、労働者は事実に基づき説明しなければならない。「労働契約に直接関係する基本的状況」については、法律及び司法解釈では明確な規定がない。実務において、通常、企業は従業員に対し、学歴、職歴、連絡方法、健康状況などを含む基本的状況の提供を要求し、さらに一部の企業は従業員に対し、婚姻状況、直系親族の関連情報などの提供も要求する。
司法実務において、企業が従業員による虚偽の個人情報の提供を理由に労働契約を解除した場合、労働仲裁機構又は裁判所がそれを認めない事例はめずらしくない。その理由は主に下記の二つにある。
第一に、個人情報が労働契約に直接関係するか否か、即ち個人情報が労働契約の履行に実質的な影響を与えるか否か。一般的に、労働契約に直接関係する基本情報は主に学歴、職歴、特殊職務に必要な資格証書又は健康資料、元の就職先の推薦状などが含まれる。それらの基本情報は業務能力、技術熟練度などに直接関係するからである。もしそれらの基本情報に虚偽がある場合、通常従業員は過失があると認定される。又、婚姻、生育、健康状況などのような労働契約の履行に実質的な影響を及ぼさない個人情報については、仮に虚偽があったとしても、企業がそれを理由に一方的に労働契約を解除することは、一般的に仲裁機構及び裁判所には認められない。その主な理由は、それらの情報は労働契約の履行に対し実質的な影響を及ぼさず、又、従業員のプライベートに係り、従業員がそれを提供しない権利を有すると共に、雇用差別と認定される可能性もあるからである。例えば、上海市黄浦区裁判所は、ある英語教育機構が従業員による生育情報隠しを理由に労働契約を解除した事案において、当該教育機構による労働契約解除が違法解除に該当すると認定した。
第二に、個人情報が「労働契約に直接関係する基本的状況」に該当する場合に、企業が合理的な注意及び告知義務を履行したか否か。それらの義務は主に、個人情報と採用条件を関連させること、個人情報の真実性を審査すること、及び虚偽情報の提供による結果を明確に告知するなどである。企業は上述の義務をきちんと履行した場合にのみ、一般的に下記の二つの方法により、従業員との労働関係を処理することができる。一つは、『労働契約法』第26条を適用し、従業員による詐欺行為を理由に労働契約無効を主張する。もう一つは、規則制度において「虚偽情報を提供する場合は、解雇処分を受ける」ことを明記している場合、『労働契約法』第39条を適用し、従業員が規則制度に著しく違反したとして労働契約を解除する。