匿名株主は会社の会計帳簿を閲覧することができるのか?

    王さんは江蘇某会社の匿名株主であり、既に出資義務の履行を果たし、かつ数回の配当金を受け取っている。しかしある日、会社の利益計算に問題があると疑った王さんは会社に対し書面による会計帳簿の閲覧を要求したが、拒絶された。王さんは株主の知情権(知る権利)が侵害されたことを理由に裁判所に訴えた。結局、勝訴となった。 

    類似の事件において、北京某会社株主の張さんは、裁判所に対し会社の会計帳簿閲覧請求訴訟を提起したが、棄却された。弁護士に問い合わせ、張さんは、匿名株主が訴訟により顕名株主になった上で、株主の帳簿閲覧請求権に関する紛争について訴訟を提起することができることを知った。

    当該二つの事件は、匿名株主の帳簿閲覧請求権の行使における典型的な問題を反映している。匿名株主が会計帳簿閲覧権を行使する場合は、株主資格確認訴訟を提起し且つ勝訴したこと(顕名化)を前提としなければならないのか?

    『会社法』第33条では、「株主は会社の会計帳簿の閲覧を要求することができる。……会社が閲覧請求を拒絶した場合は、株主は会社に閲覧を認めさせるよう裁判所に請求することができる。」と規定している。当該規定から見れば、法律上、匿名株主が直接訴訟を提起し、会社の会計帳簿の閲覧を要求できるか否かは明確にされていない。

    司法実務において、最高裁による『〈中華人民共和国会社法〉適用の若干問題に関する規定(三)』では、『契約法』第52条の規定に違反しない場合に、裁判所は匿名株主による顕名要求を支持すべきであると規定されているが、匿名株主が訴訟により顕名された後のみ、会計帳簿閲覧請求訴訟を提起できるかは明確にされていない。

    立法の現状によって、各地の裁判所の実務規則にもばらつきがある。例えば、『上海市高級裁判所による会社関連の訴訟案件の審理における若干問題に関する処理意見(一)』(2003年)第1条では、実際の株主(匿名株主)が会社に対し株主権利の行使を主張する場合は、先に当事者間の法律関係の確認を求める訴訟を提起しなければならないことを明確にしている。北京市高級裁判所も同様の意見を採っている。江蘇省高級裁判所は、「株主資格の確認と知情権の問題は同一案件において解決すべきで、判決を別々にするか否かは当事者の請求によって決定する」という観点を採っている(詳細は、『江蘇省裁判所内部における会社法の難解な案件検討会総述(江蘇省高級裁判所民二廷)」参照)。ところで、文頭の江蘇某会社の株主王さんの株主資格確認と会計帳簿閲覧請求は同一の案件において解决された。

    従って、実務において関連当事者は下記の問題に注意するよう提案する。

    一、諸種の理由により匿名で特定の会社に出資するときに、将来発生しうる株主資格確認訴訟のために、その株主資格を証明できる資料や文書など(匿名組合協議書、会社より発行された持分証書又は出資証明書、株主総会議事録、配当金受取の関連資料などを含むがそれらに限らない)を要求、保管する。

    二、会計帳簿閲覧請求権を行使する前に、係る司法機関の実務規則を確認し、会計帳簿閲覧請求訴訟に伴う立件要求及び手続を把握する。