労働契約は企業移転によりどのような影響を受けるか

    A社は経営上の都合により、市内から近郊へ移転する予定を立て、それに伴い通勤バス等の対応措置を策定した。しかし、一部の従業員は移転に反対し、会社の移転対応計画に応じず、且つ労働契約の解除並びに経済補償金を会社側が支払うことを主張した。この場合に、企業はどのように応対すべきなのか?

    『労働契約法』第40条、第46条の規定によると、労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、労働者が労働契約の内容変更に同意しない場合、企業は労働契約を解除することができるが、経済補償金を支払う必要がある。しかし、企業が移転することは、必然的に客観的な状況に重大な変化が起こる状況に該当し、またそれによって移転に同意しない従業員に経済補償金を支払わなければならないのだろうか?

    法律法規及び司法解釈では、企業の移転が客観的な状況に重大な変化を起こすとは、明確に見なされていない。しかし、司法機関は大量の判決を通じて、当該問題についての基本的な判断基準を示している:

    まず、企業が他の市へ移転する場合は、一般的に「客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となる」と認定される。従業員が移転に同意しない場合、企業は経済補償金を支払わなければならない。その理由は、各地方の社会保険基数、最低賃金基準等が異なるため、他の市へ移転する場合は、地方性労働規定の適用結果が異なるからである。

    次に、企業が同一市内で移転することについて、各地の裁判所の判決基準はそれぞれ異なるようである。深圳を例に挙げると、『深圳市中級人民法院による労働紛争事件の審理における関連法律適用問題に関する座談紀要』第5条によると、同一市内の移転は「客観的な状況に重大な変化が起こる」という項目に該当せず、従業員の経済補償金の支払請求は支持されない。但し、上海では、移動距離の長さ及び合理的な関連措置の有無等具体的な状況を総合的に考慮して認定している。通常の場合、企業が市内でまたは近郊の「区」へ移転し、且つ関連措置を講じた場合は、「客観的な状況に重大な変化が起こる」に該当しない。(2010)滬一中民三(民)終字第823号を例に見ても、本件企業は関連措置を講じたため、「客観的な状況に重大な変化が起こる」に該当しないと判断した。

    従って、実務において、企業が同一市内で移転する場合は、下記の点に注意すべきと思われる。

    (1)、所在地の地方性司法実務規則を事前に確認する。

    (2)、事前に関連措置を制定し、必要な民主的協議を行い、移転の旨を従業員に適時公布又は通知し、且つ関連証拠を保存する(例えば、従業員意見募集の関連文書等)。合理的な関連措置には通勤バスの手配、出社時間の延期等が含まれる。

    (3)、企業は主管労働部門と積極的に交渉し、関連する企業移転対応措置の計画を適時報告し、届出を行う。

    又、労働契約の締結時に、近距離の移転による労働紛争を減らすために、「勤務場所」を詳しく約定しすぎないように注意すべきである。