ブランド商品の並行輸入の応対方策

    ブランド商品の並行輸入とは、登録商標の所有者又はその他の許諾された者(以下「被許諾者」という)がある国(輸出国)で、輸出国の登録商標を付した商品を製造、販売した後、第三者(輸入業者)が当該商品を他国(輸入国)に輸入し、当該登録商標の所有者又、その他の被許諾者も当該輸入国で同一商標の専用権を有することを指す。

    上海自由貿易区の設立及び海外ネット通販の出現に伴い、ブランド商品の並行輸入問題が顕在化している。特に一部の多国籍企業にとって、ブランド商品の並行輸入はその中国子会社のマーケティング戦略、ディーラー管理などに大きな影響を与えることになる。従って、ブランド商品の並行輸入にいかに応対するかは関連企業の重要な課題となっている。

    しかし、当該問題について、中国の現行の法律ではまったく規定が定められておらず、司法部門も明確な立場を示していない。今までのところ、ブランド商品の並行輸入にかかわる案例は極めて少なく、見つけられたケースは二件だけある。

    その内、1999年広州中級裁判所が審理した「LUX」(力士)化粧石鹸事件において、被告は並行輸入と主張したが、裁判所は、事件関連の化粧石鹸が商標権者からのものであること、又、商標権者の許諾を得たことを被告が証明できなかったため、原告の行為は登録商標独占使用権を侵害にあたると判定した。このことから、当該事件において、裁判所はブランド商品の並行輸入が権利侵害となるか否かを直接表明しなかった。2009年長沙中級裁判所が審理したMichelinタイヤ事件において、裁判所は、事件関連のタイヤが中国の3C認証を取得せずに中国で販売されたため、当該販売が違法となった上に、且つ性能や安全欠陥のリスクを有する恐れがあり、原告商標が商品品質と商品提供者の信用に対する保証を傷つけ、原告の登録商標専用権に損害を与え、原告の商標専用権を侵害すると判定した。裁判所は当該事件において、関連商品に対する強制的認証を取得していないという点を判断材料にしたことは、、間接的にブランド商品の並行輸入の合法性を肯定したように見受けられる。。但し、商品に対する認証などいかなる特殊な要求がない場合に、ブランド商品の並行輸入が権利侵害となるか否かはいまだ不明確である。

    上述の状況の根本的な原因については、商標の並行輸入は商標権の地域性と国際貿易の発展との矛盾、国家による産業保護などの問題にかかわり、大幅に一国の発展状況並びに相応の政策によによるものだと思われる。最高裁判所の孔祥俊氏は最近発表した論文『新修訂商標法適用のいくつかの問題』の中で並行輸入について、商標権の地域性、権利者保護を原則とし(即ち、原則として商標の並行輸入禁止を意味する)、例外として「同一支配」(注記:同一支配とは、外国と本国の商標は同一の主体が所有するか、又は外国と本国の商標所有者は親子会社であり、若しくは同一の所有者や支配者に従属することを指す)などを考慮するべきであるという見解を表明した。当該見解は当該問題に対する中国裁判所の全体的な立場を表すのか否かにかかわらず、中国の発展現状から見て、司法部門はそれぞれの事件において、ブランド商品の並行輸入が権利侵害となるか否かを容易に認定せず、それぞれの事件においてその他の要素を判断材料にすることで事件の紛争を解決することができると我々は考える。

    この場合、関連企業は下記の2点によりブランド商品の並行輸入に対して、防止・対応することができると考えられる。

    まず、事前合意により、できる限りブランド商品の並行輸入の可能性と相応の損失を下げることを約束しておく。被許諾者は商標使用許諾契約を締結するときに、「商標権者は、ほかの地域の商標被許諾者から中国に対する当該商標を付した製品の輸出を禁止する義務があること;商標権者が並行輸入を有効に制止できない場合、被許諾者は相応の商標使用許諾料を減少する権利がある」などについて許諾者(商標権者)と約定することができる。又、商標権者は商標使用許諾契約において製造場所を約定しておくことを心がける必要がある。約定された場所以外で製造された商品については、品質に対する権利者の監督管理に欠けるため、商標の出所表示機能を損ね、並行輸入となる場合に商標権者は相応の主張を提出することができる。

    次に、個別の事件において並行輸入以外の要素を十分利用することを勧める。例えば、前述の判例において言及された商標使用許諾証明、強制的認証など。又、並行輸入商品の包装、装飾が関連規定に違反し、又は比較広告などの状況がある場合は、関連企業は『反不正競争法』により自身の権益を守ることも考えられる。