「偽りの契約」の潜在リスク
2008年、A社はB社から設備を購入したが、設備入荷完了後も、契約金額残金の50%をずっと支払っていなかった。B社が残金支払を数回に渡り催促した結果、A社は銀行引受手形によって支払うことに同意した。しかし、A社が銀行に対し引受手形の発行を申請したとき、銀行は引受手形を発行するには締結後1年以内の契約及び相応の増値税インボイスの提示が必要であると答えた。そしてA社はB社に対し、契約金額の50%の残金について「偽りの契約」を締結し、相応の増値税インボイスを発行するよう要求した。B社は代金を早く回収するため深く考えずに同意し、A社と「偽りの契約」を締結し、相応の増値税インボイスを発行した。しかし、その結果A社はその「偽りの契約」に基づきB社に対し納品義務の履行を要求したため、B社はどうしたらよいのか分からなくなってしまった。
実務において、類似の事件が度々発生する。実は、「偽りの契約」の締結は、本件に言及された「実際の履行」を要求されるリスク(契約の無効又は同時履行の抗弁などが可能だとしても、結果が見通せず、人力と財力を費やす等、根本的にリスクを免れない)があるほかに、少なくとも下記の問題が潜んでいる:
一、インボイス管理に関する法令違反による処罰の危険性。『インボイス管理弁法』及びその実施細則では、インボイスは営業取引が発生し、営業收入を確認した場合にのみ発行されるもので、営業取引が発生しない場合はインボイスを発行してはならないことが規定されている。従って、実際に発生した取引とインボイスは一致しなければならず、一致しない場合は、インボイスの虚偽発行と見なされ、それにより行政処分、更に刑事処罰を受ける可能性がある。本件において、二つの会社間には確かに取引があったが、銀行の要求を満たすため、別途締結した「偽りの契約」は、銀行引受手形を申請するためのインボイスに対応する「契約」と相応する実際の取引が存在しないため、インボイスと取引が一致しなければならないという要求に明らかに違反することとなる。
二、財務管理上の混乱の恐れ。一部の会社は、行政機関によりインボイスの虚偽発行と認定されることを避けるために、往々に会計帳簿において「偽りの契約」を明記していない。これによって、真偽を見分けられず、未収金・未払金の管理が混乱してしまう。特に代金紛争となった場合、立証することもより複雑になる。
なお、実務において、一部の当事者は「補充協議書」の締結することにより、「偽りの契約」によって「実際の履行」を要求されるリスクを排除する。しかし、これは問題を解決する根本的な方法ではない。「補充協議書」は前述に言及されたインボイスの虚偽発行のリスクを排除できない上、それ自体、法的効力も不確定である。
従って、「偽りの契約」は絶対に代金回収の問題を解決する良策ではなく、万一の事があれば、盗人に追銭となる可能性もある。