競業避止義務違反と不正競争

    A社と余さんは秘密保持協議書を締結し、競業避止義務を約定した。余さんは離職後、A社のライバルであるB社に入社した。A社は、余さんが競業避止義務に違反し、且つA社の営業秘密をB社に開示し、B社が競争優位になるように働きかけたとして、A社は余さんが競業避止義務に違反し、不正競争行為に該当することを理由に余さんを訴えた。しかし結局、裁判所はA社の請求を棄却した。

    なぜ裁判所はA社の訴訟請求を棄却したのか?

    実は、本件において、余さんの二つの行為はそれぞれ異なる法律関係に該当する。余さんが競業避止義務に違反し、A社のライバルであるB社に入社することは労働契約による法律関係に該当し、また余さんがA社の営業秘密を利用することによりB社に競争優勢をもたらしたことは不正競争に係る法律関係に該当する。

    『民事事件理由規定』(2008年改正)の「十六、不正競争、独占紛争」において、「……(3)営業秘密侵害・競業避止紛争」を規定している一方、「十七、労働紛争」において、競業避止紛争について言及されていなかった。しかし、2011年改正後の『民事事件理由規定』では、「十五、不正競争紛争」の「160、営業秘密侵害紛争」について、「(1)技術秘密侵害紛争、(2)経営秘密侵害紛争」を規定している。又、その「十七、労働紛争」の「169、労働契約紛争」において、「……(7)競業避止紛争」を規定している。つまり、最新の『民事事件理由規定』では「競業避止紛争」を「労働契約紛争」に取り入れているのである。

    従って、A社が余さんの競業避止義務違反を理由に不正競争行為にあたると主張することは明らかに理由選択の誤りである。労働紛争に該当する状況下では、まず労働仲裁を提起すべきである。これらの理由で、裁判所はA社の訴訟請求を棄却した。

    では、A社のような、元従業員が競業避止義務に違反してライバル会社に入社し、秘密保持約定に違反して現在の雇用者に対し元雇用者の営業秘密を開示した場合、労働仲裁を提起するほかに選択肢はないのであろうか?

    実はそうではない。営業秘密があることは競業避止義務約定の前提条件ではない。よって、元雇用者は労働仲裁により元従業員の競業避止義務違反責任(違約責任)を追及することができ、また元従業員及びその現在の雇用者による営業秘密侵害が不正競争行為に該当することを理由に侵害責任を追及することもできる。