職務発明の見落としがちな問題―誰が発明者なのか?

    筆者が最近取り扱っている特許権紛争事件において、Aさんは元会社を退職した後、元会社に類似する業務に従事する新会社を設立し、自ら法定代表人を務めた。研究開発に従事していないにもかかわらず、新会社特許を出願したときに、Aさんは発明者として署名した。元会社は当該発明がAさんの元会社における職務発明であることを理由に、特許権を主張した。 

    元会社の主張が裁判所に認められるか否かは多くの要素によって判断されるが、この件は特許の発明者についての問題を喚起している。 

    実務において、多くの会社は発明者の署名問題を重視していない。これらの会社は職務報奨報酬又は発明権帰属紛争を回避するために、法定代表人又は管理者が研究開発に従事していないにもかかわらず、一律に法定代表人又は管理者を発明者として特許権を出願することが多い。しかし、この方法には多くの法的リスクがある。

    最も典型的なリスクは、発明者又は考案者の署名権の剥奪による署名権紛争である。『特許法』第17条では、発明者又は考案者は特許出願書類において自分が発明者又は考案者であることを明記する権利を有すると規定している。『特許法実施細則』第13条では、発明創造の実質的な特徴に対して創造的な貢献をした者を発明者又は考案者と明確に限定している。法定代表人又は管理者が研究開発に従事していないのあれば、研究開発の過程において発明創造の実質的な特徴に対して貢献をし、且つ貢献が創造的なものであることは基本的に証明できないはずだ。従って、名義上の「発明者」は署名権紛争において通常敗訴となる。敗訴に伴い、職務発明についての奨励・報酬が要求される可能性は高いと思われる。 

    もう一つの潜在的なリスクは、特許権の安定性に対する影響である。例えば、上述の事例のように、他社が、関連発明の「発明者」がその元従業員であることを利用し、職務発明を理由にして、関連発明の特許権を主張する可能性がある。実務において、このような状況は珍しくない。元会社から退職した者が、新会社を設立して法定代表人又は高級管理者を務めることが多いからである。特に元会社に研究開発に従事していたが、新会社の研究開発には従事していない名ばかりの発明者の場合、新会社の特許出願書類に署名することにより、特許権紛争に巻き込まれ、不必要な訴訟を生じる。

    又、発明者の署名問題は特許権侵害紛争に著しい影響を及ぼす可能性がある。例えば、特許権侵害紛争において、訴えられた侵害被疑者が被害者である元会社で関連特許技術の研究開発に関与していたものの、特許書類にその者の署名がない場合、関連従業員は署名権紛争や職務発明奨励・報酬紛争などを通じて、元会社の訴訟策略及びその推進などに影響を大きく与えることがある。特に関連従業員と元会社との間に研究開発による技術成果について約定があり、且つ約定が元会社に不利な場合には、被疑者による特許技術の使用が正当なのかそれとも不正なのかを判断するには、深刻な影響を与える可能性がある。 

    実は、上述の法的リスクの以外に、会社の発展から市場を展開するためには、創造・革新を行う必要があり、創造・革新のキーポイントとは、研究開発者の創造意欲を十分に引き出すことである。従って、「発明をした者が発明者である」ということは、会社の研究開発制度の基本規則とされるべきである。