取引契約の履行における信義誠実原則

    甲乙双方は売買契約を締結し、そのうち、乙が某年某月某日午前12点前に貨物を引き渡すと約定した。又違約条項において、何れかの一方当事者に契約内容に違反する行為があった場合は、相手方に対して契約金額の5%に相当する違約金を支払うと約定した。しかし、乙が引渡義務通り、貨物を甲に引き渡したが、引き渡しが完了した時には約定期日の午後2時になっていた。その為、甲は、乙が約定に違反したと主張し、乙に契約金額の5%に相当する違約金の支払いを請求した。結局、双方間で紛争が生じ、裁判所に訴訟を提起したこととなった。このような場合、甲の主張が裁判所に認められるか?実は、当該事件に類似するケースは少なくないと思われる。、例えば、双方契約において引渡場所の約定が不明確であった場合、引渡側はこれを理由に、相手側の引渡請求を無視することができるのか等。

    上述のような行為が妥当であるか、つまり万一紛争が発生した場合、司法機関から認められるか否かを判断する場合には、信義誠実の原則に基づきケースバイケースで分析する必要がある。
信義誠実の原則は民法の基本原則として、契約の締結、履行及び終了後まで全過程に適用される。特に、契約履行において主に付随義務と契約の解釈問題に反映される。

    まず、付随義務とは、給付義務の履行、又は当事者の人身や財産上の利益を保護するために、契約の発展過程において信義誠実の原則に基づいて課される義務を指す。『契約法』第60条には、「当事者は約定に基づき、自らの義務を全面的に履行しなければならない。当事者は信義誠実の原則を遵守し、契約の性質、目的や取引の慣習によって、通知、協力、秘密保持などの義務を履行しなければならない。」と規定している。従って、これらの義務は普通契約が順調に履行されるよう、関係当事者に負わせる義務であり、必ずしも契約において約定しなければならないとは限らない。実際のところ、仮に約定していても、あらゆる問題をカバーするのは無理と思われる。そのため、当事者は契約で約定されていないことを理由に、履行を拒否してはならない。例えば、前述の引渡場所が不明確であったことが原因で起きた事件については、業界の取引慣習などに基づき、それを明確にすることができる場合は、引渡側が引き渡さないことは明らかに信義誠実の原則に違反する。日本でも、「買手において誠実に取引する意思あらば、相手方に対する一片の問合わせに依り直ちに之を知る」として、、買手が信義の原則により相手方に問い合わせることを怠ったことにおいては、遅滞の責を免る理由とならないとする、というような判決があった。

    又、次の二つの問題について、注意が必要だ。一つは、付随義務には通常、反対給付の性質がないため、当事者は相手方の付随義務の未履行を主張するときに、同時履行の抗弁権を行使できな場合が多い。もう一つは、相手方が付随義務を履行しない場合に、通常、契約解除を主張することができない。例えば、本文の冒頭に述べた事件において、甲が主張する違約金が認められるかどうかについては、信義誠実の原則に基づいて、乙による2時間の履行遅滞によって甲にいかなる損失も発生せず、その他の不利な結果ももたらさない場合は、司法実務において違約金を認められる可能性は低いと思われる。

    次に、契約の解釈における信義誠実の原則の適用とは、契約の履行において契約条項の意思表示が不明確である、又は当事者の法的知識の不足により、それぞれの権利義務を明確にできず契約履行できない、更には紛争が発生した場合、信義誠実の原則に従い関連条項を解することを指す。

    『契約法』第125には、「当事者は契約条項の理解において異議がある場合、契約で使用する用語、契約の関連条項、契約の目的、取引慣習及び信義誠実の原則に照らして、当該条項の真意を決めなければならない。」と規定している。即ち、契約締結時の客観的状況及び背景を十分に考慮し、契約当事者の真実の意思表示を基に、双方の現実の利益状況と結びつけて関連条項を解すべきである。

    注意すべきは、信義誠実の原則の適用は、法律に定められる具体的な規則及び司法解釈を適用してもなお問題を解決できない場合に限られる。史尚寛先生の『債法総論』に述べられた-「戴雪飛」事件はその問題の適例である。当該事件において、「期限が切れたら締結しない」という表現について、文面から見れば「原因を問わず、買い手が期限日までに締結しない場合は違約となる」と理解できるが、仮にそうなると、買い手が手付金の損失を受けるか、又は売り手の分譲住宅前売書式契約の全ての内容を無条件に受け入れることとなるか、と言う不利な結果に直面する一方、売り手は利益を取得することになる。最終的に、二審裁判所は信義誠実の原則に従い、分譲住宅前売契約を締結できない理由は、一方当事者が契約締結を理由なく後悔したわけではなく、双方当事者が合意に達しなかったため、違約に該当しないと認定した。 

    従って、取引契約の当事者は信義誠実の原則に基づき契約の関連義務を履行し、法律法規、司法解釈に従っても確定のできない契約解釈の関連問題に対して、信義誠実の原則に基づいて協議し、取引が有効に成立するよう努力すべきである。一方、不利な地位にある当事者は、自分の利益を保護するために、信義誠実の原則をうまく利用する必要がある。