退職後の発明創造も職務発明に該当するか?

    競争優位を持続させる知的財産の重要性が益々高くなることに伴い、特許権の帰属に関する紛争も日増しに増加している傾向にある。その内、技術者が退職後に特許を出願することにより発生した職務発明権の帰属紛争は往々に複雑に錯綜しており、なかなか結論が出せない場合が多い。

    職務発明とは、発明者又は考案者が雇用者の職務を遂行し又は主に雇用者の物質的技術条件を利用して完成された発明創造を指す(『特許法』第6条)。現時点では、職務発明を判断する際に、主な法根拠は『特許法実施細則​』第11条、第12条である。『特許法実施条例』第12条には、「雇用者の職務を遂行することによって完成した職務発明創造とは、(一)本来の職務の中で行った発明創造;(二)雇用者から与えられた本来の職務以外の任務の履行によって行われた発明創造;(三)定年退職、異動後又は労働、人事関係終了後1年以内に行なった、元雇用者で担当していた本来の職務又は元雇用者から与えられた任務と関係がある発明創造を指す。雇用者の物質技術条件とは、雇用者の資金、設備、部品、原材料、又は対外的に公開されていない技術資料などを指す。」と規定している。

    従業員の退職後における発明創造が職務発明に該当するか否かは、実務において、いかに「1年以内」という期間を判断するか、いかに「元雇用者で担当していた本来の職務又は元雇用者から与えられた任務と関係がある」か判断するか、更に「主に雇用者の物質的技術条件を利用する」という点の判断基準などの問題について、議論がある。下記にて、順番に分析する。

    一、「1年以内」の判断基準。まずは、「完成」の時点をどのようにに判断するか?実務において、発明完成の時点が判断しにくいため、関連判決では、通常は特許の出願日から逆算し、当該時点が退職後およそ1年以内にあるか否かを判断する。次に、「1年」というのが固定期間なのか?という問題について、これは、柔軟に考える必要があると思われる。実務において、司法機関は融通をきかせて判断する事例もある。例えば、上海第一中級法院の判決((2009)滬一中民(知)重字第1号)では、元の勤務先に再雇用された定年退職後1年以上になされた技術者の発明は依然として職務発明に該当すると判断した。その理由は、以下の通りに述べている。「……当該各号(注:『特許法実施細則』第11条第1項第(三)号))」を全面的に理解するには、文脈及び当該法規の趣旨と照らし合わせなければならない。当該各号の前の(一)、(二)号の規定によると、雇用者から与えられた任務の履行によって行われた発明創造は企業の任務によるものである、……但し、発明者が職務を離れた場合は、当該任務が継続するか否か、又発明者が本来の技術分野において技術革新を行えるか否かなどが判断の難しい問題となる。それらの問題を解決し、各当事者の利益均衡をとるために、第(三)号では一定の期間(即ち1年)を基準として設け、1年以内に行われた発明創造については、技術任務の事実上の持続性をより重要視し、その発明創造の権利を企業に付与する;1年以上の場合は、発明者の創造意欲が促進することをより重要視し、関連創造の権利を発明者に付与する。しかし、そのような区分は、退職、定年退職又は異動を問わず、発明者は実際に本来の職務を離れたことを基本前提としているため、任務の継続性と技術革新の積極性との均衡が必要となる。ところが、本件の状況はそれと異なる。XXは2000年に定年退職したが、仕事は終了しておらず、直ちに原告により再雇用され、本来の仕事に従事してきた。言い換えれば、XXは定年退職により元の職務を離れたわけではない。従って、……XXが再雇用期間内に完成した発明創造は、定年退職後1年以上の関連規定に適用しない……」。当該判決で反映される規則は、雇用者又は発明者が注意する必要があり、又具体的な事件において柔軟に運用されることも考えられるべきだろう。 

    二、元雇用者で担当していた本来の職務又は元雇用者から与えられた任務との関連性。多くの事件において、裁判官は、往々にして、従業員の職務又は雇用者から与えられた任務には、紛争に係る特許発明、技術考案と同様、又は密接に関連する研究開発任務が含まれているか否か等から判断し、元雇用者が従業員の職務範囲及び具体的な履行状況、又は研究開発任務の引受、実施を証明できない場合は、一般的に職務発明と認めることはない。実務において、以下の判断傾向がある:「従業員が退職前に自らの職務又は与えられた任務によって、元雇用者のプロジェクトの研究開発任務を引き受けた場合、退職時に当該プロジェクトはまだ完成していないにも拘らず、その進捗状況又は段階的な成果を知っていてさえすれば、離職後の一定期間内に行った発明創造は、往々にして元雇用者で担当していた職務と密接に関連するため、その権利を元雇用者に帰属させたほうが合理的である」[1]。従って、訴訟において、元雇用者は、退職後の発明創造が発明者の元の職務又は会社の技術分野、業務分野と同様又は類似することを理由に職務発明に該当すると主張するよりも、発明者の職務範囲及び具体的な履行状況又は研究開発任務の引受、実施の証明という点から主張したほうが良いと思われる。

    三、「主に雇用者の物質的技術条件を利用する」ことの判断基準。実務において、雇用者は下記の二つの点を証明する必要がある。第一に「物質的技術条件」について。これは資金、設備、部品、原材料、又は対外的に公開されていない技術資料など、即ち有形的物質及び無形的技術秘密を含む。第二に「主に利用する」については、最高人民法院による『技術契約紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』第3条を参照することができると考えられる。当該条項によると、「法人又はその他の組織の物質的技術条件を主として利用する」とは、従業員が技術成果(注:当該解釈第1条によると、技術成果には特許、特許出願が含まれる)の研究開発過程において、法人又はその他の組織の資金、設備、器材又は原材料等の物質的条件の全て又は大部分を利用し、且つこれらの物質的条件が当該技術成果の形成に実質的に影響を与えたことを含み、又、当該技術成果の実質的な内容が、法人又はその他の組織がまだ公開していない技術成果、及び段階的な技術成果の基礎の上に完成された場合も含む。但し、以下の状況はその限りではない。(一)法人又はその他の組織が提供する物質的技術条件の利用について、資金の返還又は使用料の支払いを約定した場合。(二)技術成果の完成後、法人又はその他の組織の物質的技術条件を利用し、技術考案に対して検証やテストを行った場合」。 

    上記の纏めとして、具体的な事件において、当事者は自分の位置づけをしっかり行い、状況に基づき、上述の判断規則/傾向を合法的且つ柔軟に利用し、合理的な訴訟策略を制定すべきである。